【法廷から 記者が見た人生模様】なぜ…孤独に弱さ露呈 甲子園V元主将 野球失い「価値ない」 八街強盗致傷、実刑判決

「法廷から 記者が見た人生模様」
「法廷から 記者が見た人生模様」

 「地元の同級生は野球をやっていない自分にも声を掛けてくれた。関係を壊したくなかった」―。全国の高校球児が憧れる甲子園の舞台に立ち、チームを優勝に導いた元主将。後に彼が立ったのは千葉地裁の法廷だった。淡々と語る姿から感じたのは、“英雄”になったが故の絶望と孤独。そして、人の弱さと未熟さだった。

 2017年に夏の甲子園を制した花咲徳栄高の元主将、千丸剛被告(21)。19年4月に仲間3人と八街市内の住宅に強盗目的で押し入り、夫婦にけがを負わせたとして、強盗致傷などの罪に問われた。

●改革を進め頂点へ

 彼は小学2年から野球を始めた。高校では人一倍強い責任感が監督の目にとまり、主将に選出。上下関係に基づく不必要な決まり事を廃止するなど「下級生も練習に集中できる環境にしたい」と改革を進め、全国約4千校の頂点に上り詰めた。

 スポーツ推薦で進学した駒沢大学で、順風満帆だった野球人生が一変する。長時間にわたる正座の強要やたばこの火による根性焼きなど、上級生からの暴力が絶えず「チームの風習について行けなかった」。入学から約半年後の18年9月に野球部を退部。大学内には知人もおらず、通い続ける選択肢はなかった。

●「何で辞めたの」

 グラウンドを離れても、周囲が英雄を忘れることはなかった。街を歩けば「千丸君だよね」と声を掛けられ、面識のない人から「何で野球辞めたの」と問い詰められることも。次第に野球関係の友人と距離を置くようになり、無気力で家に引きこもる時間が増えた。

 「野球をしていない自分には価値がない」と絶望していた時、唯一声を掛けてくれたのが地元の友人だった。「人のいない家から金を運ぶ仕事がある」。同級生から届いた1本の電話は、後に懲役5年の実刑判決を受ける強盗致傷事件の誘いだった。

 彼は当時、20歳の誕生日を迎えたばかり。「大丈夫か?」と不安もよぎったが、「こんな自分に声を掛けてくれる仲間との関係を壊したくなかった」。当時の記憶をたどり、言いよどむことなく発せられた一言は真実味を帯びていた。

●寄り添っていれば

 公判では情状証人として、花咲徳栄高野球部の岩井隆監督が出廷した。大学野球部での日常について相談を受けたが「何とか耐えてみろ。そういう世界もある」と返し、退部の報告があった際も叱ってしまったという。その後連絡は途切れ、「もう少し寄り添っていればこんなことにはならなかった」。教え子に対する責任を感じ、社会復帰後の就職先を用意した。

 「自分が涙を流せるのは監督の前だけ」。それでも彼は、見放される恐怖から事件のことは話せなかった。一方、法廷では姿勢を正しはきはきと語った。「もし話せていたら『すぐに出頭しろ』と言われたはず」「今思うと断る道もあった。未熟だった」

 グラウンドで発揮した強さは本物だろう。同時に彼の言葉通りの未熟さと、人間関係の中でかいま見せる弱さも本当の姿だろう。彼には被害者の痛みに思いをはせ、罪を償ってほしい。ただ、同世代の1人として、手を差し伸べる誰かがいればと思わざるを得なかった。

  (報道部・安西李姫)


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