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星が爆発した現場において、生まれたばかりの星を包む多様な有機分子含んだゆりかごを世界で初めて発見

    宇宙における有機分子の多様性や太陽系形成環境への新たな知見がもたらされることを期待

    2026年7月9日
    新潟大学
    岐阜大学
    理化学研究所
    京都大学

    星が爆発した現場において、生まれたばかりの星を包む多様な有機分子含んだゆりかごを世界で初めて発見
    -宇宙における有機分子の多様性や太陽系形成環境への新たな知見がもたらされることを期待- 

     

     星が爆発した現場で、多様な有機分子を含む星のゆりかごが初めて発見されました。

     新潟大学理学部の下西隆准教授、岐阜大学の佐野栄俊准教授、理化学研究所開拓研究所の古家健次研究員、京都大学の大屋瑶子講師は、アルマ望遠鏡(注1)を用いて、約1600年前に重たい星が爆発した領域を観測し、星の赤ちゃんを包む暖かい分子ガスのゆりかご(ホットコア(注2))を発見しました。さらに、このゆりかごには、複雑な有機分子(注3)や水をはじめとして、様々な分子が含まれていることも明らかになりました。今回の発見は、超新星爆発(注4)という有機分子にとっては過酷な環境にあっても、生まれたばかりの星はそのゆりかごに守られ、化学的な豊かさが保たれる可能性を示唆しています。本研究は、宇宙における有機分子の多様性や、私たちの住む太陽系が形成された環境の理解などに大きく貢献することが期待されます。この研究成果は、2026年7月1日に天文学論文誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されました。

     

     

    本研究成果のポイント

    ・星が爆発した現場において、生まれたばかりの星を包む暖かい分子ガスのゆりかごが世界で初めて発見されました。

    ・近くで星が爆発した過酷な環境にあっても、星のゆりかごには様々な種類の有機分子が含まれていました。

    ・生命関連物質の材料となりうる複雑な有機分子は、私たちが思っていたよりずっと過酷な環境でも生き残る可能性が示唆されました。

     

     

    研究者からのひとこと

    「超新星爆発という、宇宙最大規模の爆発現象が近くで起きた現場でも、生まれたばかりの星の周りでは、有機分子を含む様々な物質が、その化学的な豊かさを保っていることが明らかになりました。超新星爆発が起きた領域は、太陽系が形成された環境との類似性も指摘されており、非常に興味深い研究対象です。今後の研究のさらなる進展にも期待したいです。」
    (新潟大学 自然科学系・下西隆 准教授)

     

    「本研究対象である RX J1713.7-3946 は、宇宙の時間尺度で見ると、超新星爆発から間もない天体であり、極めて強力な衝撃波と高エネルギー粒子で満たされています。そのような極限環境の中でも、星のゆりかごが『磁場』によって守られているという事実は、驚くべき発見でした。星の終焉と誕生の繋がりを理解するうえでも重要な成果です。」
    (岐阜大学大学院 自然科学技術研究科・佐野栄俊 准教授)

     

     

    Ⅰ.研究の背景

     私たちの住む太陽系は、もしかしたら超新星爆発の影響を強く受けた領域で誕生したのかもしれません。これは、太陽系形成時の記憶を保持する物質に含まれる放射性同位体の分析から得られている示唆です。太陽よりも約10倍以上重い星は、その生涯を終える時に超新星爆発と呼ばれる爆発現象を起こします。超新星爆発は、宇宙の中で最も高エネルギーの現象の一つであり、鉄より重たい元素の生成、宇宙線(高エネルギーの荷電粒子)の加速、そして次の世代の星形成の誘発など、銀河の進化に多大な影響をもたらします。では、超新星爆発が生み出す強い衝撃波や高エネルギーの粒子は、星や惑星の材料となる物質の化学組成にどのような影響を与えるのでしょうか?

     

     太陽系の材料となった物質には、多種多様な有機分子やアミノ酸などの生命素材物質が含まれていることが近年の研究により明らかになっています。星や惑星は、分子雲と呼ばれるガスや塵(ちり)のかたまりの中で誕生します。分子雲の大部分は極めて低温(マイナス260度以下)ですが、塵の表面を触媒とした化学反応が進むことが知られており、複雑な有機分子の多くはこの表面反応を介して氷として生成されると考えられています(注5)。星が誕生し、周囲の物質が暖められはじめると、これらの氷は融け、ガスの状態で放出されます。星の赤ちゃんを包むこのような暖かい分子ガスのゆりかごは、ホットコアと呼ばれ、生命関連物質の材料となりうる様々な有機分子が電波観測により検出されることが知られています。

     

     このようなホットコアは、星・惑星材料物質の化学的な複雑性を探る上で非常に重要な天体ですが、これまで超新星爆発が起きた領域で発見された例はありませんでした。そのため、超新星爆発の影響下で誕生しつつある星・惑星系において、その材料に含まれる様々な有機分子が生き残ることができるのか、についてはよく分かっていませんでした。超新星爆発により生じる高エネルギー粒子や強い衝撃波は、複雑な有機分子を破壊したり、または新たな分子の生成を促したりする可能性があります。

     

     

    Ⅱ.研究の概要・成果

     そこで、星形成や星間化学の観測・理論研究の専門家、および超新星残骸(注4)研究の専門家からなる本研究チームは、RX J1713.7-3946という名の超新星残骸に着目し、そこに暖かい分子ガスをまとった星の赤ちゃんを探す観測をアルマ望遠鏡で実施しました。この超新星残骸は、中国の歴史文献により1600年前に爆発したことが記録されています。この領域は、太陽系近傍の分子雲に比べて10倍から100倍以上強い宇宙線や、強烈なX線・ガンマ線放射、秒速数千キロメートル近い衝撃波など、通常の星形成領域では見られない過酷な環境にあることが知られています。アルマ望遠鏡では、天体から放射される波長約0.9 mmから1.2 mmの電磁波(注6)を、約0.5秒角(注7)という非常に高い解像度で探る観測が行われました。

     

     観測の結果、本研究チームはこの領域に星の赤ちゃんを包む暖かい分子ガスの塊(ホットコア)を2天体発見しました。超新星残骸にてホットコアが発見されたのは今回が初めてです。いずれの天体にも多様な有機分子が付随していました。超新星の爆発時期を考慮すると、この2天体は、爆発が起きる前からすでに誕生していたと考えられます。

     

     発見された2天体のうちの一つについては、検出された輝線(注8)に基づきより詳細な分析と比較研究を行い、複雑な有機分子の存在割合が、通常の環境下にある同様の天体と類似していることも明らかにしました。これは、超新星爆発の現場においても、赤ちゃん星はそのゆりかごにしっかりと守られ、そこに含まれる複雑な有機分子は破壊などの影響を受けていない、ということを示しています。生命の材料となりうる有機分子が存在する場所は、私たちが考えていたよりも多様で、過酷な宇宙環境でも化学的な豊かさが保たれることを今回の観測結果は示唆しています。

     

     超新星爆発の影響下においても星のゆりかごが守られている要因として、発表された論文では、超新星爆発に曝され始めてからの経過時間がまだ十分ではなく、有機分子がまだ壊れ始めていない、もしくは星のゆりかごが超新星爆発の衝撃波により発生すると考えられている強力な磁場に守られ、宇宙線の侵入を妨げている、といった可能性を議論しています。

     

     

    Ⅲ.今後の展開

     今回発見された天体については、超新星爆発の現場にありながらも、星のゆりかごはその影響から守られ、複雑な有機分子は生き延びていました。しかし、これが普遍的な描像かどうかは未だ不明です。爆発した星との位置関係や、爆発に曝され始めてからの経過時間、星が爆発する前の環境など、超新星爆発が星・惑星材料物質に与える影響は様々な要因により変わる可能性があります。超新星爆発の影響により、複雑な分子が破壊されたり、別の分子へと姿を変えたりしている星・惑星系も存在するかもしれません。

     

     今後、電波望遠鏡による分子ガスの大規模観測や、赤外線望遠鏡による塵や氷の観測が進むことで、超新星爆発の影響を受けた星のゆりかごやその中にある原始惑星系円盤(注9)の物理的・化学的性質がより詳細に明らかになることが期待されます。これにより、太陽系形成環境の普遍性または特殊性に対して、これまでにない新たな知見がもたらされることが期待されます。

     

     

    Ⅳ.研究成果の公表

     本研究成果は、2026年7月1日、米国の天文学論文誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されました。

     

    【論文タイトル】Survival of Molecular Complexity under Recent Supernova Feedback: Detection of Hot Cores in RX J1713.7-3946

    【著者】Takashi Shimonishi, Hidetoshi Sano, Kenji Furuya, and Yoko Oya

    【doi】10.3847/1538-4357/ae6fba

     

     

    Ⅴ.謝辞

     本研究は、文部科学省科学研究費助成事業(課題番号: 20H05845, 24H00246, 25K07364, 25K07367, 26K00761、26K22372)、内田エネルギー科学振興財団試験研究費助成 (R07-1017)、国立天文台ALMA共同科学研究事業(2024-27B)の支援を受けたものです。

     

    【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202607082204-O9-KSbp1614

    図1. 超新星残骸に発見された星の赤ちゃんを包む暖かい分子ガスのゆりかご(ホットコア)の想像図

    青色は超新星爆発により生じた高エネルギー粒子や光子、茶色は星間物質を表している。

    クレジット:下西隆(新潟大学)[本研究の観測結果に基づき、Google GeminiおよびChatGPTによる描画支援を利用]

     

     

     

    【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202607082204-O10-Nau020Ww

    図2. 超新星残骸RX J1713.7-3946に発見された2つの星のゆりかご

    背景は当該領域の観測画像で、青色はX線が捉えた高エネルギー領域、緑色は4.6ミクロンの赤外線による恒星の分布、赤色は22ミクロンの赤外線から推定される暖かい塵の分布、そして白色の等高線は冷たいガスの分布を示す。今回発見された2つの星のゆりかごの位置は緑色の四角で示されている。左上および右下のパネルはアルマ望遠鏡による観測結果で、メタノールやジメチルエーテルをはじめとして、様々な分子が検出されている。X線はXMM-Newton衛星、赤外線はWISE衛星、冷たいガスの分布はNANTEN, NANTEN2, ATCA, Parkes望遠鏡による一酸化炭素および中性水素の観測(Fukui et al. 2012)に基づく。

    クレジット: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Shimonishi et al.

     

     

    用語解説

    (注1)アルマ望遠鏡

     アルマ望遠鏡(正式には、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array、ALMA)は、南米チリ共和国北部にあるアタカマ砂漠の標高5000メートルに建設された電波望遠鏡です。パラボラアンテナ66台を組み合わせる干渉計方式の巨大望遠鏡で、ミリ波・サブミリ波領域では分解能・感度ともに世界一の性能を誇ります。アルマ望遠鏡は、国立天文台を代表とする東アジア、米国国立電波天文台を代表とする北米連合、ヨーロッパ南天天文台を代表とするヨーロッパ、及びチリ共和国が協力して建設・運用する国際的な共同プロジェクトです。

     

    (注2)ホットコア

     生まれたばかりの星(原始星)の周りでは、分子雲段階で生成された氷が融けることで、暖かい分子ガスが大量に存在する領域が作られます。星の赤ちゃんをゆりかごのように包むこのような暖かい分子ガスの塊は、ホットコアと呼ばれています。暖かいといっても、温度としてはマイナス150度前後からせいぜい室温程度です。星形成初期の分子雲の状態に比べれば十分に暖かいので、ホットという表現が使われます。太陽程度の比較的質量の小さい原始星に付随するホットコアは、ホットコリノと呼ばれることもあります。

     

    (注3)複雑な有機分子

     天文学では、6個以上の原子からなる有機分子を「複雑な有機分子」と呼んでいます。

     

    (注4)超新星爆発・超新星残骸

     太陽よりもおよそ10倍以上の大きな質量を持つ重い星や、一部の近接連星がその生涯を終える時に引き起こす宇宙最大規模の爆発現象のことです。超新星爆発は、鉄より重い元素を作ったり、その強烈な衝撃波により強いX線やガンマ線など発生させたり、高エネルギーの荷電粒子(宇宙線)を加速させたりと、周囲の環境に大きな影響を与えます。爆発時の超新星は一時的に極めて明るくなるため、天体によっては古代の文献にその記録が残っているものもあります。超新星爆発の後に残された星雲状の天体を超新星残骸と呼びます。

     

    (注5)宇宙の氷

     宇宙には塵(ちり)またはダストと呼ばれる固体微粒子が存在します。星や惑星が形成される分子雲に見られる極低温(約マイナス260度)かつガスや塵が多く集まった環境では、ダストの表面に気体の原子・分子が吸着し、氷が生成されます。これらは星間氷と呼ばれています。塵や氷の表面に気体が吸着することで局所的に密度が上がり、かつ表面が触媒の働きをすることで、星間氷を介した化学反応は気体の状態での反応に比べてより複雑な分子を作ることができます。このような反応過程は、星や惑星の材料となる物質の化学的複雑性を生むメカニズムの一つとして重要であると考えられています。

     

    (注6)電磁波

     今回アルマ望遠鏡で観測を行った波長0.9mmの電磁波は、サブミリ波と呼ばれ、電波の中では最も短い波長の領域です。

     

    (注7)秒角・分角

     角度の単位のことで、1度の1/60が1分角、1分角のさらに1/60が1秒角です。

     

    (注8)輝線

     原子や分子は、その種類に応じて特定の波長の光を放出します。これは輝線として観測されます。電波望遠鏡は、天体に付随するガスから放射されるこの光を捉え、どのような種類の原子・分子がどれくらいの量・温度で存在しているかを探ることができます。

     

    (注9)原始惑星系円盤

     生まれたばかりの星を囲むガスと塵からなる円盤状の領域のことで、惑星はこの円盤の中で塵が衝突・合体を繰り返すことで誕生すると考えられています。

     

     

    情報提供