【ちば特(千葉日報特報部)】 なぜ?“千葉式”高校野球スコア 升目を無視「癖が強い」 広川元理事長のこだわりが伝統に

右が千葉県高校野球の公式スコア。左が一般的な「早稲田式」で記入したスコア
右が千葉県高校野球の公式スコア。左が一般的な「早稲田式」で記入したスコア
春季千葉県高校野球大会決勝でプレーする選手=千葉市稲毛区
春季千葉県高校野球大会決勝でプレーする選手=千葉市稲毛区
千葉県高野連の第5代理事長を務めた広川善任さん(県高野連50年史から)
千葉県高野連の第5代理事長を務めた広川善任さん(県高野連50年史から)

 野球のスコアブックの書き方には「早稲田式」と「慶応式」の2種類が存在する。全国的には早稲田式が主流だ。ところが、千葉県の高校野球界ではアウト時を分数のように書くなど慶応式要素を入れた独自記入法が定着している。大会の公式記録も同様で他県から「癖が強い」と指摘されたことも。「ちば特(千葉日報特報部)」今回は夏の高校野球千葉大会開幕に合わせ、なぜ千葉が独自記入方法を用いるのか調査した。(「ちば特」取材班 小川洋平)

◆「早慶ミックス」

 「千葉のスコア表記って少し違いますよね」。昨秋、県内で開催された秋季関東高校野球大会の会場で他県の記者から指摘された。長年高校野球取材に携われば誰もが聞かれる質問。「千葉ではこうなっています」と説明するしかない。

 同じ記者いわく「読めなくはない」。スコアシート自体は早稲田式に使う一般的な用紙のため、ポジション番号などが分かれば解読できるはず。ちなみに千葉県大学野球界は全国と同じ早稲田式となっている。

 写真の通り、早稲田式はアウト数を中央の升目に「I、II、III」とローマ数字で書く。打球の行方などを記す数字は「4-3」などと右下に記していく。

 一方、千葉では升目や補助線を完全に無視。アウト時は真ん中に大きく横線を引き、打球の行方などを上に、アウト数を下に洋数字で書く。二ゴロで1死なら上に「43」、けい線を挟み下に「1」と分数のようになる。進塁時は漢数字を用いるなど、細かい部分にも独自性がある。

 この分数のような書き方は、先述の慶応式に似ている。ただし、出塁時は右下の枡目から使用していくなど流れは早稲田式に近いため、千葉は早慶がミックスされたオリジナル記入法となっている。

◆昔は「早稲田式」

 高校野球の関係者に当たり、取材を進めた結果、県高野連で記録担当や副理事長を務めた関忠昭さん(77)から貴重な話が聞けた。関さんは、県立千葉東高校の生徒だった約50年前には「早稲田式を使っていた」と記憶している。

◆「大きく記述せよ」

 事の発端は広川善任さん。第5代県高野連理事長で、東海大望洋高(現東海大市原望洋高)の初代校長などを務めた人物だ。

 関さんの話などによると、現在の記入方法になったのは1970年前後。几帳面な性格の広川さんが「千葉はこれでいく。経緯が分かるように大きく記述せよ」と細かくルールを決め、毎年開く記録講習会でもマネジャーに周知させていった。

 「偵察用」要素の強さが特徴で、ファウルの方向や、当初は変化球種も△などを用い記した。「細かく書き込む方が作戦まで見えてくる」と関さん。早稲田式なら「8)」と記し中前打であることしか分からない場面でも、二遊間を抜けた安打なら「4・6」と表記するなど、試合を見ずともシーンが浮かびやすいように配慮した。

◆伝統は生きた証

 関さんは「関東大会などを開く度に千葉の記録は『癖が強い』と言われ、質問や苦情が殺到した」と笑う。

 肝心の広川さんがなぜそこまで強いこだわりを見せたのかは分からなかった。常に手帳を持ち歩き、県高野連のマークも作成したそうだ。関さんは「細かな方だったので徹底しないと気が済まなかったのかもしれない」と推測する。些細なことでも気にかけ、周囲と衝突する時もあったというが、「誰もが広川さんを尊敬していた」。伝統のスコアは広川さんの生きた証でもある。

◆電子化で消滅も

 千葉県高校野球界の公式スコアは手書きだが、近い将来、パソコンで作成する電子スコアが導入される見込み。電子スコアはもちろん早稲田式。千葉オリジナルスコアは公式から消えてしまうかもしれないが、千葉県内高校出身のマネジャーがいる限り、密かに継承されていくはずだ。

 公式記録が世に出回らないため、千葉のスコアの違いを知っている人は少なかったのではないだろうか。伝統が失われる前に、ここにてんまつを「記録」させていただく。


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