千葉県南部でイノシシ急増 生息域拡大、住宅にも 昨年の台風で環境変化か 【地方発ワイド】

館山市内の住宅に出没したイノシシ2頭(早川さん提供)
館山市内の住宅に出没したイノシシ2頭(早川さん提供)
地元のハンターからわなの仕掛け方を学ぶ高校生=南房総市の安房拓心高
地元のハンターからわなの仕掛け方を学ぶ高校生=南房総市の安房拓心高

 南房総市や館山市など県南部で、イノシシの捕獲数が急増している。生息域が拡大し、農作物被害だけでなく人間の生活圏に出没する事例が相次ぎ、被害は広範囲に及ぶ。一方、獣害対策の一翼を担う地元の狩猟従事者は高齢化が進み、各自治体はあの手この手で若いハンターの育成に力を入れている。

(館山・鴨川支局長 飽本瑛大)

 昨年度、県内トップの3537頭のイノシシ捕獲があった南房総市。本年度は10月末現在で4266頭を捕獲し、過去最多だった2016年度の5146頭を超える見込みだ。市農林水産課は「このままのペースだと、最終的に7千頭前後になる」との見通しを示す。

 生息域がここ数年で急速に拡大。市内で捕獲例が少なかった海沿いの白浜・千倉地区では、14年度からの5年間で捕獲数が約23倍に急増した。イノシシを含めた有害鳥獣による昨年度の農作物被害額は3401万円と、前年度に比べ増加。農作物にとどまらず、最近では人間の生活圏内での目撃例が数多く報告されている。

 10月、富津市のJR内房線上総湊駅近くで電車にイノシシが衝突。館山市では地元の農家組合所属の早川満さん宅に、体長約110センチのイノシシ2頭が現れた。早川さんがカメラを向けて撮影すると、イノシシは突進。早川さんは瞬時に身をかわしたため無事だったが、「今後は農作物被害だけではなく、事故や人的被害もあり得る」と、より人間の身近に出没するようになったイノシシに危機感を強める。

◆エサ求め近くに?

 イノシシ増加の背景には、昨秋の相次ぐ台風による自然環境の変化や、昆虫が病原菌を木の中に運び込むことで引き起こされる伝染病「ナラ枯れ」の拡大など、複数の要因が考えられるという。
 「台風による倒木などでエサのドングリが一時的に増え、捕獲数も減ったため子どものイノシシが増えた。逆に今年は全国的にドングリが不作。エサを探しに山を下りてきているのでは」。館山市地域おこし協力隊として、獣害対策や自然環境の調査に携わる合同会社「アルコ」代表の沖浩志さん(37)は、このように分析する。

 また、「イノシシは基本的に人に合うと逃げるが、近年は『人間と出合っても何もしてこない』と学習し、行動が大胆になってきている」と、イノシシの学習能力の高さも関係しているとみる。

◆ハンター育成や誘致

 有害鳥獣被害を軽減しようと、南房総市では農業者や猟友会などと対策協議会を開催。有害獣捕獲への報奨金や狩猟免許取得費を補助するなどの策を講じている。ただ、沖さんによると、狩猟従事者は70代前後の団塊の世代が中心。若いハンターの育成が急務だ。

 同市では本年度から、滞在型狩猟体験イベント「南房総2拠点ハンターズハウス」を実施。安全な狩猟場を確保しにくい都市部の免許保有者へ民宿を提供し、市内に滞在しながら狩猟してもらうことで、獣害対策や観光業支援につなげる狙いだ。

 体験費用は15万円(税抜き、講座や民宿利用費など含む)と比較的高額にもかかわらず、定員を超える参加応募があったという。沖さんは「狩猟ブームの影響もあり、都市部で免許を取得する人が増えている。人口減少が進む中、2拠点生活で狩猟の機会を増やしていければ」と期待する。

◆刺激せず距離確保を

 地元の担い手育成にも力を入れる。市は今月、県立安房拓心高で初めて鳥獣被害対策実習を実施。地元のハンターが協力して、園芸・畜産系列の3年生にわなの種類や仕掛け方などを教えた。参加生徒からは「命がけの仕事だと知った」「(わな猟免許が)18歳から取れると聞き、興味が湧いた」と好評だった。

 普段の生活でイノシシと出合ったらどうすればいいのか。館山市では市広報紙12月号に「寄せない」「刺激しない」「慌てない」の3原則を掲載。イノシシの性格や特徴を交えて市民へ注意を訴える。沖さんは「イノシシに出合ったら刺激せず、距離を取って逃げるまで待ってほしい」と呼び掛ける。


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