


少女をモチーフとした明るくポップな作品の発表を続ける千葉市出身のアーティスト、ロッカクアヤコの個展「魔法の手 ロッカクアヤコ作品展」が千葉市中央区の県立美術館で開かれている。世界的に高い評価を受けている新進気鋭の作家の国内美術館で初となる大規模個展だ。
1982年生まれのロッカクは20歳ごろから絵を描き始めた。デザインの専門学校を卒業しているが、美術を専門的に学んだわけではなく、絵は独学。絵筆を使わず、手に直接絵の具を付けて段ボールやキャンバスに描く独特のスタイルと、「天性」とも言える色使いのセンスで注目を浴び、欧州で大規模な個展を開くなど世界的に活躍している。
展覧会は未発表作品を中心に、最新作約160点を展示。中でも目玉は、高さ5メートル、幅7メートルの段ボールの巨大作品「Magic Hand」。展示室の空間形状に合わせた「おにぎり型」で、10日間かけて展示室内で制作した大作だ。空間自体を抱きかかえるように両手を大きく広げた少女を大胆に配した画面が印象的。本来、少女とは「守ってあげたい」と思わせる存在だが、作品では少女に守られているかのように見え、崇高な感覚すら覚える。
直径240センチの円形のキャンバスに描いた「Untitled」も目を引く。少女がいるのは花畑のようにも見えるが、そうとも限らない抽象的で不思議な世界。ピンクや赤といった可愛らしい色に青などの寒色も効果的に配した構図からは、抜群の色彩センスが感じられる。
30点の組作品によるインスタレーション「宇宙戦争」は「形」にこだわった新機軸。キャンバスを成形して作られた「シェイプド・キャンバス」に描いた宇宙船をモチーフとした作品は、絵の中から対象が飛び出してきたかのような物質感を帯びながら、重力から解放された自由な世界の楽しげな雰囲気を見事に表現している。
木製の一輪挿しに絵を描いた「フラワーベース」、アダチ版画研究所とのコラボレーションによる木版画も「形」を意識した作品だ。
ただポップでカワイイだけにとどまらない、具象と抽象のはざまを行くかのような揺らぎを帯びた作品群は、鑑賞者にさまざまな想像を促す豊かな多面性を持つ。ただ、どの作品にも共通するのは、一様に明るく、ポジティブなエネルギーに満ちていること。圧倒的な光で照らす力は、混沌(こんとん)としたポストコロナ時代に必要とされるものではないかと感じた。
(平口亜土)
◇千葉県立美術館(千葉市中央区中央港1―10―1)
「魔法の手 ロッカクアヤコ作品展」は来年1月11日まで。9時~16時半。月曜休館(祝日は開館し翌日休館)。一般300円、高校・大学生150円。「コレクション展 名品」も同時開催。(電話)043(242)8311。