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「わからない」展 異例ヒット 現代美術で最多 客の能動性促す 現代人の抑圧解き放つ 千葉市美術館

「非常にはっきりとわからない」の会場。梱包物や脚立などが雑然と置かれる中、スタッフが「作業」を行った(Photographs Max Pinckers)
「非常にはっきりとわからない」の会場。梱包物や脚立などが雑然と置かれる中、スタッフが「作業」を行った(Photographs Max Pinckers)
樹脂製の立体作品「アクリルガス」を覆った布を外すスタッフ(Photographs Max Pinckers)
樹脂製の立体作品「アクリルガス」を覆った布を外すスタッフ(Photographs Max Pinckers)
(Photographs Max Pinckers)
(Photographs Max Pinckers)

 千葉市美術館で昨年11月2日~12月28日に開かれた現代アートチーム「目(め)」の個展「非常にはっきりとわからない」が、同館の現代美術の展覧会としては歴代最多動員を記録する異例のヒットとなった。あまりのわからなさでSNSで話題となり、客が非公式にイベントを開くなどの動きも。わからないことが山ほどあっても、わかったふうを装いながら生きる現代人に、「わからないことだらけ」を直球で投げつけるかのような内容が支持を集める要因の一つとなったようだ。

(文化部・平口亜土)

 「目」のメンバーが地球史の一時代「チバニアン」命名の根拠となった市原市の地磁気逆転地層を訪れ、原因の解明できない天変地異への驚異から着想を得たという同展。その程度の前情報しか持たずに、会期終盤の12月26日に会場を訪れた。

 展示会場は1、7、8階。まず1階の会場に入ると、絵画や像などを梱包(こんぽう)したままの物体や、脚立、台車などが雑然と置かれ、「展示作業中」とみられる光景が提示されていた。不穏さを感じつつも、同館は改装工事中と聞いていたので、「改装現場が混在しているのだろう」などと考えつつ7階へと移動した。

 7階でエレベーターの扉が開くと、戸惑うばかりの光景が眼前に現れた。ここにも梱包物や道具が至る所に置かれ、養生用のビニールシートが張られている。7階も1階と同様、「展示作業中」なのだ。

 一方で、梱包を解かれた作品もある。だが、円形の樹脂のオブジェや、時計のムーブメントを大量に吊り下げたインスタレーションなど、なんとも捉えどころがない作品ばかり。

 8階に移動すると、また一驚する。7階と全く同じ光景が目に飛び込んできたからだ。部屋の構成も展示物も全く同じ。

 ただ、細かく観察するとわずかな「違い」に気づく。私が7階で見た日本画が8階では布で覆われていた。また、スタッフが梱包物を運んだり、展示室を区切る壁を移動させたりしながら会場に「変化」を与えている。ただ、不思議なのは、その作業が「設営」なのか「撤去」なのか、判然としない。スタッフたちは一度運んだ物をまた同じ場所に戻す、という奇妙な行動を繰り返していた。

 「わからなさ」が募り、7階に戻ると、こちらでもスタッフが物を移動させている。首をひねりながら7、8階を何度も往復した。

◆現代美術で最多

 同展の入場者数は2万7187人と同館の現代美術の企画展としては最多を記録。2位の赤瀬川原平展(2014年)の1万8120人を大きく上回った。ツイッターの効果が大きく、12月始め、同展をオススメする投稿が“バズ”り、客が急増した。

 「『これは何だ?』と、直感的に驚くことのできる内容が支持されたのでは」と同館の担当者。現代美術はとかく難しいと敬遠されがちだが、同展は美術史を知らずともストレートに「わからなさ」を楽しめる内容だった。

 よくよく考えると、世界はわからないことだらけだ。誰しも当たり前のようにスマートフォンを使い、飛行機にも乗るが、なぜ文字や動画が簡単に伝達でき、なぜ金属の物体が空を飛ぶのか。詳しく説明できる人はさほど多くない。究極を言えば、我々はなぜ生きているのか。そんな普遍的な「わからない」も、わからないままにやり過ごすのがごく普通の現代人だ。

 「『わからない』とはなかなか言いづらい時代に『わからない、と言ってもいいんだよ』というメッセージを受け取ってくれた人たちに響いたのでは」と担当者は言う。実は展覧会が、「わからない」と大声で叫びたい人々の抑圧された欲望を解き放つ契機となったのかもしれない。

 事実、大勢の人が同展の解釈を試みては「わからない」と連呼している。

 「7階と8階がパラレルワールドを示しているのでは」「赤と青の円形のオブジェはN極とS極を表現しているのでは」-。ツイッターやブログで、あるいは客が開設したLINEのオープンチャットで、「謎解き」のように多様な意見が交わされることになった。

 会期終了後、SNSを通じた呼びかけで鑑賞者たちが都内で非公式イベントも開催。知らない人同士がリアルで顔を合わせ「わからなさ」を議論するとは、ちょっとしたブームである。

 「理解しようとすると、ますますわからなくなった」「わかるとはわたしの思い上がりだった」-。同館が実施した企画「わからない収集プロジェクト」にも、普段のアンケートの1・5倍ほどの2564件が集まったという。

◆客の能動性促す

 私がこの展覧会から想起したのは、5年前に同館で個展も開かれた前衛芸術家、赤瀬川原平の「梱包」の手法だ。

 赤瀬川は梱包された「見えない作品」を展示することで、美術展の「制度」を揺さぶった。梱包物は我々にかえって中身を強く意識させ、「芸術とは」「美とは」と深く考えさせる。「見えない展覧会」を提示した今展覧会でも、赤瀬川の延長線上の試み、つまり展覧会と展覧会でないものの境界線、現実と非現実の境界線とは何かと問いかけているようにも見える。

 いずれにせよ、担当者は「今展覧会に『正解』はありません」と明言していて、私の見方も多様な解釈の中の一つに過ぎない。無限の解釈ができるところが現代美術の醍醐味なのだと再認識させられる。

 同館は「お客さんに展覧会に能動的に関わってもらえる契機となった」ことに意義を感じているという。現在同館はリニューアル工事のため休館中だが、7月の再開後、客の能動性を促す取り組みを仕掛けていく予定とのことで、新たな挑戦を楽しみに待ちたい。


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