今「芸術の初夏」

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 一般に「芸術の秋」という呼称があるが、近ごろは「芸術の初夏」もあるらしい。五、六月で、プロ・アマそれぞれの案内状が十数通届いた。

 友人の車を頼めるだけ頼んで巡回するも、三、四か所は失礼することになる。

 訪ねて、主人公がいないと「ホッ」とする。声をかけられればうれしくないわけでもないが、緊張してしまうのだ。

 ご本人留守の会場では、ゆっくりと作品を堪能して帰ってくる。サインも、所番地・郵便番号まで詳細に書いてくる。

 下総屋画廊の「クロッシング展」は、なるほど数多くの作家・作品が交差していた。

 小堀龍司氏の「海のロマン」連作を観る。

 「今回は切り絵も焼き物も出しません。ペン画のイラストを出しました」

 とご本人の弁。

 作品「海のロマン」には、小堀氏の幻想の魚が泳いでいて、おとぎばなしがつづられる想い。夢の魚をカラーで紹介できないのが惜しい。

 小堀氏は、今回は切り絵も焼き物も出さない、と言っていたが、じつはその方面でも名を得ていて、前後する陶芸展の方に出品していると聞く。

 廊下に出て、二番目の展示室に入り、木寺啓幸氏の銅版画コーナー前に立つ。

 木寺氏の銅版画は何度か観る機会があり、見るたびに感動を覚える。今回も秀作ぞろいに思えたが、モノクロで新聞紹介することを考慮して「早春」を選んだ。

 「この作品は、早春の木々の芽吹きの生命(いのち)を、エングレービン(銅版画)にうつしました。直刻する道具は、ビュランという専門用具で、造幣局のお札の原版を彫る道具もこれだそうです」(ご本人談)

 作品「早春」は、弱々しく見える細い枝にも、春を待つ芽吹きのシンフォニーが聴こえる。

 下総屋画廊から一度戻ってまた引き返した。画廊で何気無く見た絵の中の少女が、私を呼んだような気がしたからだ。

 画廊にはマネージャーの山下浩美さんがいて、画家の横澤光子さんの笑顔もあった。...