五月晴れの谷津田、早苗やコナラの花がさわやかな風で揺れていて、サシバ(タカの一種)が「クッピョー」と上空を旋回しながら鳴いている。山際の農道を上っていると柴犬に似た獣が山陰から飛び出した。驚いてカメラを構え、シャッターを切ったが、農道から、トントンと水田に降り、低い姿勢で地面を這うようにあぜを素早く走り、向かい側の土手のやぶに潜り込んでいった。
頭が小さく、脚は短い。全身が黄土色だが、胴が黒っぽく、尾は明るい黄色でふさふさしていた。「アナグマ(ニホンアナグマ)!夜行性なのに昼間いるとは!」としばらくぼうぜんとしていた。アナグマはもこもこしていて縫いぐるみのようであった。谷津田の初夏はアナグマが昼間活動するほど命あふれる季節なのかと思った。...
若いころ、高校生から「房総丘陵で交通事故にあったアナグマを飼っている家がある」と聞いた。訪ねると玄関に木製のリンゴ箱があり、その中で若いアナグマが眠っていて、一口かじったリンゴが中にあった。のぞき込んでも眼を覚まさず、時々大きないびきをかいていた(拙著93『房総動物誌』うらべ書房)。いびきをかくのは人だけと思っていたので、驚いたが「穴熊の寝息のごとく星きらめく 山崎十生」との安らぎを感じる冬の句もある。
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