
親を亡くした生徒らを支援する「あしなが奨学金」の資金を当事者の学生らが募る街頭募金が18日から県内でも始まる。県内では、本年度のあしなが高校奨学金(高校生と高専生が対象)に128人が申請し、うち55人が不採用となって支援を受けられていない。一人一人の募金が学生たちを救うことにつながる。同奨学金を受けて学ぶ当事者で、街頭での募金呼びかけにも参加する市川市の大学1年生、宮崎琴音さん(19)は「奨学金の有無で今の生活だけでなく、未来が変わる」と訴える。
(井田心平)
◆授業料免除で家計支え
宮崎さんは、米国人の父親と日本人の母親の間に生まれた。「父は体が大きく、強くて頼もしい存在だった」。そんな父が体調を崩したのは、宮崎さんが小学3年生の時だった。その後、父は治療のために母国に戻るも、闘病の末に亡くなった。宮崎さんが小学5年生の時だった。
その後、小学生時代から習っていたバスケットボールの名門に進みたいと、私立の中学校に進学。入学試験の結果から、特待生として入学することができた。家計が苦しいことに気づいたのは、中学1年生で母から「特待生の中でも授業料が全額免除される一番上の待遇を目指してほしい」と頼まれた時だった。
母は、宮崎さんらを養うために正社員として勤務するだけでなく、時にはアルバイトもこなしていたが、大黒柱を失った家計は苦しかった。「自分が頑張らなければ」と覚悟を決めた宮崎さんは、中学校2年生から高校3年生まで学業で好成績を残して授業料の全額免除を続け、家計を支えた。
◆将来に希望が持てた
高校進学時に「あしなが奨学金」を申請した。「採用されるまで、すごく不安だった」。無事に選考を通過し、あしなが奨学生に選ばれた。「毎月決まった額を3年間もらえるのはとても大きい。先が見えないと不安で気持ちが後ろ向きになってしまう。将来に希望が持てた」。
それでも、アルバイトをして家計を支えるために、高校では大好きなバスケットボールを続けることを諦めた。「奨学金があっても、周りの一般家庭に比べると経済的に苦しかった」。授業後、飲食店やコンビニでアルバイトをして生活費を稼いだ。「苦痛には感じなかったが、勉強との両立はとても難しかった」と振り返る。
◆やりたいことに向かう
「やりたいことがあっても、経済的な面から、どうせ無理だと諦めてしまうことが多かった」。しかし、高校2年生であしなが高校奨学生の集いに参加したことで、考え方が大きく変わった。スタッフとして集いに参加していた大学生から「やりたいことをやりたいと言わないと夢はかなわない。夢に向かっていって良いんだよ」と言葉をかけられた。「自分を取り巻く環境にとらわれず、自分のやりたいことと向き合ってみようと思えた」。
宮崎さんは現在、周りに勧められた進学先ではなく、自らの意思で選んだ都内の大学に通い、夢に向かって充実した日々を送っている。宮崎さんの可能性は無限に広がっている。
◆55人が支援待つ
あしなが育英会が全国の同高校奨学生の保護者を対象として8~9月に行った調査によると、オンラインで回答があった1447件のうち54・5%が「過去1年間に食料を買えなかった経験がある」とし、苦しい生活実態が浮かび上がる。
2023年度から返済の必要がない給付型となった同高校奨学金の本年度の申請者数(全国)は、物価高なども影響して過去2番目に多かった。県内では128人が申請し、うち55人が不採用。支援を必要とする学生に対して資金が足りない状況が続いている。奨学生世帯ですら経済面で厳しさを抱えている中、いまだに県内申請者のうち約4割の学生たちが先の見えない不安な日々を過ごしている。
宮崎さんは「募金をしてもらうことで1人でも多くの子を救える」と話した上で「街頭募金では支援者と対面できる。応援してくれる方と会うと『恩返しできるように頑張ろう』と思える。皆さんの温かい気持ちが私たちの励みになる」と呼びかけた。
◆駅前で正午~午後5時
県内での街頭募金は▽JRの千葉駅、船橋駅、本八幡駅(18、19、25、26日)▽JR津田沼駅(18、19日)▽JR稲毛駅(18、19、26日)▽つくばエクスプレス流山おおたかの森駅(19、25、26日)▽JR新浦安駅(25、26日)で正午~午後5時に行う。





