


独自の文化・芸術を持つメキシコからインスピレーションを受けた日本の芸術家8人に焦点を当てる企画展「メヒコの衝撃」が、市原湖畔美術館(市原市)で開かれている。千葉県が日本とメキシコの交流が始まった地であることから企画された同展。北川民次、岡本太郎、利根山光人ら錚々(そうそう)たるアーティストたちの作品を通じて、彼らとメキシコとの間で起きた化学反応ぶりに迫っている。(平口亜土)
1609年にメキシコに向かう帆船が御宿沖で座礁。300人を超す遭難者を地元住民が救出し、徳川家康の計らいで無事帰国させたことを機に両国の交流が始まった。千葉との深い関わりにちなみ企画された同展。同国は古代文明の発達やスペインによる植民地化、独立・革命など複雑な歴史を経てきたことを背景に、独自の文化・芸術が生まれており、影響を受けた日本の芸術家も少なくない。
会場でひときわ目を引くのは、原爆による破壊と再生を描いた岡本太郎の壁画「明日の神話」の3分の1スケールの原画(1968年)。岡本はメキシコ五輪に向けて建設中のホテルのロビーのために制作したが、ホテルは完成せず、壁画は長らく行方不明に。2003年にメキシコシティー郊外で発見され、後に渋谷駅コンコースに設置された。岡本の撮影したメキシコの遺跡や街、風景の写真も展示されており、同国の文化・歴史への並々ならぬ強い関心が伝わってくる。
メキシコから衝撃を受け作風が大きく変わった利根山光人の作品も印象的。「太陽の神殿」(1966年)をはじめとした絵画群は、マヤ文明の遺跡が醸す豊かな想像力や人間の生命力に感化された様子がにじむ。古代遺跡を写し取る「拓本」にも取り組み、その一端を会場で鑑賞できる。
同館のある市原市に長く住んだ戦後銅版画の第一人者、深沢幸雄もメキシコをテーマに多くの作品を残した作家。マヤ・アステカの古代遺跡に触発され、それまでの叙情的な作風から鮮やかな色調の作風へと変えた。
このほか、革命直後のメキシコに渡り、民衆の芸術を求める「メキシコ壁画運動」に感銘を受けた北川民次、メキシコの膨大な数の仮面をコレクションした水木しげる、メキシコ滞在を経て作風を大きく変えた河原温、「死者の日」の祭りに魅了され極彩色で魔法画を描き続けるスズキコージ、マヤの洞窟泉を巡る神秘の旅を映像で表現した小田香を紹介している。
同館担当者は「メキシコから影響を受けた作家たちの表現を一度に見られる機会はめったにないのでは。夏休みなので、普段本物を見る機会のない子供たちにも見てもらいたい」とし、来場を呼び掛けている。
■市原湖畔美術館 (市原市不入75-1)
「メヒコの衝撃―メキシコ体験は日本の根底を揺さぶる」は9月26日まで。平日10~17時、土曜・祝前日9時半~19時、日曜・祝日9時半~18時。月曜休館(祝日の場合翌平日休館)。一般1000円、大学・高校生・65歳以上800円。(電話)0436(98)1525。