本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「恵み」 『わらしべ長者』

  • LINEで送る

 「一粒まいたら千粒になあれ。二粒まいたら、二千粒になあれ」。おじいさんが祈りを込めて種をまく。「一粒まいたら一粒のまんま。二粒まいたら二粒のまんま」。狸がはやし立てる。これは「かちかち山」の冒頭の場面だ。昔話はさておき、一粒が千粒に増える種とは、なんと豊かなものだろう。

 お米の場合、一粒の種籾が二千粒ほどの実をつけるそうだ。一年で二千。二年で四百万。三年で八十億。四年で十六兆……たった一粒がこれだけ増えるのだから、一枚の田んぼ、日本中の田んぼではと計算すると、途方もない数になる。

 連作ができ、保存が効き、栄養もある米。かつて米はお金の代わりでもあった。稲わらからは、縄やむしろなど暮らしの道具が作られた。その道具は役目を果たすと燃えて灰になり、また田んぼへと還っていった。田んぼ作りで培った土木技術や治水の知恵。共同作業によって生まれた人と人の結びつき……考えてみれば、水田が作る美しい風景も、四季折々の暮らしや行事も、忍耐強く穏やかな国民気質も、みな米作りの賜物だと言ってもいいだろう。

 今年は、小学校の「田んぼ隊」に加わった。「田んぼの先生」として指導をしてくださるのは、地元の農家の方で、六十名の五年生が米作りを学ぶ。四月には種蒔き、五月には代掻きと田植えを終えた。殆んどの子が田植えは初めてで、おそるおそる泥田に足を踏み入れた。しかし、一枚の田を植え終わる頃、手つきも腰つきもさまになり、一人前の働き手のようだった。

 「昔ながらのやり方を子どもたちに伝えたい」。田んぼの先生は、そうおっしゃった。その真意は、技術より心をと言うことだろう。仕事を終え、田んぼの畦でみんなでお弁当を食べた。葦の中でヨシキリが鳴き、風が吹き、草からはいい匂いがした。その時、思い出したことがある。忘れていた大事な気持ち。それは私の子どもの頃の記憶であり、先人たちの生き方でもある。

 自然に逆らうことなく、かといって屈することなく、感謝して生きること。自分のことだけではなく、まわりにいるすべてのものたちを気づかうこと。小さな祠や石の前で、必ず手を合わせ祈っていた祖父母の姿を思い出す。大地を耕すことは、心を耕すこと。苗を育てることは、心を育てることに通じるのだろう。...

  【メモ】「わらしべ長者」日本民話選(木下順二作・赤羽末吉画)(岩波書店)

 ・・・

【残り 1027文字】