パンチ「ぬいぐるみ離れ」 人気爆発から1カ月 パンダ不在の喪失感埋める? 市川市動植物園

サル山で大人のサルと一緒のパンチ=市川市動植物園
サル山で大人のサルと一緒のパンチ=市川市動植物園
母親代わりのぬいぐるみに抱かれた出生直後のパンチ(市川市動植物園提供)
母親代わりのぬいぐるみに抱かれた出生直後のパンチ(市川市動植物園提供)
午前9時前には入場口に長い列ができた=2月末
午前9時前には入場口に長い列ができた=2月末

 いまや日本で最も有名な動物かもしれない。市川市動植物園でオランウータンのぬいぐるみを母親代わりにする姿が人気のニホンザル「パンチ」(雄)のことだ。母親の育児放棄のため人工哺育で育てられ、サル山で群れに慣れようと頑張る姿が広く共感を呼び、同園は開業約40年で最大の盛り上がりに。海外メディアの報道も相次ぎ、米ホワイトハウスの公式Xにも登場した。人気沸騰から1カ月たち、サル山の環境に徐々に慣れ「ぬいぐるみ離れ」しつつあるパンチだが「今のパンチを温かく見守ってほしい」と関係者は願う。がんばれパンチ!

(小北清人)

 2月末と3月初めの休日、記者が訪れた同園は早朝から長い列ができていた。満車の駐車場は札幌や大阪ナンバーの車も。普段より15分早い午前9時15分に開場すると、来場者がサル山に殺到。何重もの人だかりができた。

 「パンチはどこ?」。観客がキョロキョロ探すが見つからない。やっと見つけた。生後7カ月、体重2キロと順調に育つパンチだが大人のサルよりかなり小さい。「オランママ」の愛称が定着した例のぬいぐるみは持っていなかった。

 担当飼育員の宮腰峻平さん(34)は「サル山の環境に慣れ、他のサルと遊ぶことが多くなった。ぬいぐるみから離れるのは適応が順調だから」と話す。「元気があって、転んでもただで起きない性格」のパンチ。いまオランママを必要とするのは夜に寝る時ぐらいという。

 もちろん、サル山でオランママと一緒の時もある。3月上旬の平日午後、千葉市稲毛区に住む会社員の女性(54)がこの日スマートフォンで撮影した映像を見せてくれた。大人ザルに「何持ってるんだよ~」とばかりに体を当てられたパンチはその場からいったん逃げたが、懲りずに戻ってくると、置かれたままのオランママを手にサル山から奥の部屋に戻っていった。

 ぬいぐるみを抱くパンチに女性が初めて気付いたのは1月半ば。SNS投稿で目にした。人気はじわじわ広がり、2月5日に園が公式SNSで投稿すると「かわいい」「けなげだ」と一気にはじけた。女性も「お母さんに捨てられかわいそう」と感情を揺さぶられた。ニホンザルの生態や同園の人工哺育の歴史を懸命にネットで調べ、理解を深めていった。

 「気が付くと毎日、朝から晩までパンチ君です」と女性。「パンチがいつかボスザルになったらいいな」と思いを巡らせる。

 同園によると、2月上旬は雪の影響を受けたが、中旬ごろから来場者が急増。後半2週間だけで約4万7千人と例年の2月の2倍以上に膨れあがった。

 あまりの人気ぶりに、地元のタクシー運転手は「パンダが(1月末から)日本からいなくなった喪失感をパンチが埋めているんじゃないですかねえ」。

 反響は海外にも。トランプ米大統領が一般教書演説を行った2月25日(日本時間)のホワイトハウスの公式Xで、関連で掲載されたビンゴゲームの一コマに、パンチがオランママに寄り添う写真が登場。「サルのパンチが特別ゲスト」と英語で紹介された。

 また、検索エンジン「グーグル」では「パンチくん」と入力すると、ハート型のパンチのイラストが画面いっぱいに降ってくる演出が施されている。

 ただ、海外ではパンチが大人のサルにいじめられている印象の映像が前後の説明なく切り取られて広まり、同園には2月20日ごろから国際電話やメールで「パンチをいじめるな。園は何とかしろ」「パンチにぬいぐるみを持たせてわざと演じさせているのでは」などと誤解に基づくクレームが相次いだ。「パンチがかわいそう。○万ドルで売ってほしい」との申し入れも。

 園は2月27日、人工哺育で育てたパンチを群れに戻すのを最大の目標として取り組んできた活動内容を説明する声明文を、英語訳と共にウェブサイトに発表。以来海外からのクレームは減ったという。

 7月26日に満1歳になるパンチが今後、完全に群れに溶け込めるかはわからない。園はパンチ以外に5頭のニホンザルを人工哺育したが、群れに定着できた例も、うまくいかなかった例もある。

 「パンチには、サル山の環境に適応した『あるべきパンチ』になってほしい。そんなパンチを応援していただければ。その意味でも『がんばれパンチ』です」。同市動植物園課の安永崇課長は力を込めた。


  • Xでポストする
  • LINEで送る