
東京に隣接し、千葉県内でも屈指の高級住宅街がある浦安市。2011年3月11日、美しい街並みが液状化により一変した。被害は市域の86%におよび、インフラも大きくダメージを受けた。こうした中、行政が打ち出した対策工事の条件は実施地区の「全戸合意」。「安心が買えるなら安い」、「でも、本当に工事に効果があるのか」――。「二度と被害に遭わない」との願いは共通だが、住民の思いは複雑に揺れた。
(市川支局 町香菜美)
浦安市高洲の「高洲中央公園」の駐車場で、存在感を示す高さ約1メートルのマンホール。液状化被害の象徴として残すことに賛否が巻き起こった一変した高級住宅街
「雨でも降ったのかな」。同市に住む50代の女性は、東京メトロ東西線浦安駅まで娘を車で迎えに行く途中だった。経験したことがない大きな揺れ。帰宅すると、大雨が降ったように道路から水があふれ、水道管は破裂し自宅は傾いていた。1年ほど前に戸建てを購入し、引っ越したばかり。「一体何が起きたのか分からなかった」
東京湾を埋め立てて、海沿いに高級住宅街を形成した浦安市を10年前、突如襲った「液状化現象」。道路はきしみ、ひび割れ、地面から噴水のように水が噴き出して至る所から泥水が出た。被害は市域の86%におよび7万5千立方メートルの土砂が噴出。地中のガス、上下水道が破損、地上の電柱が傾くなどライフラインも大きくダメージを受けた。
特に被害が集中したのは戸建て住宅だった。
「あれ、おかしいな。ドアが勝手に動く」
JR京葉線の開通間近、35年ほど前に粉川英夫さん(72)は「便利になるだろう」と浦安市に引っ越した。3月11日は自宅で被災したが室内で大きな被害はなく、幸いけがもなかった。
だが、家の外に出てみると、地面に亀裂が入り、水が噴き出していた。「大地震で地面が割れたのか」。液状化の文字は浮かばず、すぐに110番通報したがつながらない。「ようやく来た折り返しで『今どこでも起こっています』と伝えられた。ここだけだと思っていた」。家に戻るとドアが閉まらず、傾いているような感覚。自宅が12センチほど沈んでおり「半壊」と判定を受けた。
同市は漁師町時代 ・・・
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