2009年3月2日 19:31 | 無料公開

グビジンイソギンチャクは、房総半島以南の岩礁海岸に生息し、潮間帯以深の岩の割れ目などに付着していることが多い。このイソギンチャクは通常のイソギンチャクと異なり、二種類の触手を持つ。一つは、口盤触手と呼ばれ、体の上面の「口盤」に無数に配置される粒状の触手であり、もう一方は、口盤の周縁に配置される縁触手と呼ばれる短い触手である。口盤は岩盤を這うようにマット状に拡がり、長く伸びた触手を持たないので、一見するとイソギンチャクとは思えないような姿をしている。共生性のエビの仲間がこのイソギンチャクの上で見つかることが多く、スキューバダイビングを楽しむ人たちの間では、意外に有名である。
さて、名前の由来となった虞美人(ぐびじん)は、「四面楚歌」の故事で有名な楚の武将、項羽の最愛の女性と言われ、中国四大美人に数えられることもある人物である。その名を冠する生きものは、グビジンソウの別名を持つヒナゲシと、このイソギンチャクだけであろう。前者は、虞美人が眠る墓に赤い花が咲くようになった、との言い伝えから名付けられたと言われるが、イソギンチャクの名は、日本におけるイソギンチャク類研究の第一人者である故内田亨博士による命名である。その著書に「まことに美しく、中国の宮殿の服装を思わしめるので、この和名をつけた」とあるように、白・紫・緑色など、様々な色彩の口盤触手に覆われた姿はとても美しい。色彩変異も多く、一様に緑色であったりオレンジ色であったりする個体もあり、こちらもなかなか美麗である。グビジンイソギンチャクは、現在海の博物館の展示室水槽で見ることができる。(千葉県立中央博物館分館海の博物館 柳研介)