本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「命のやりとり」 『ニルスのふしぎな旅』

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 ここ数日間、風の歌を聞きながら、スウェーデンをひと巡りする旅をしていた。本物の旅ではない。物語の中の旅だ。空からニルスと一緒に眺めた風景が、絵巻のように心に広がる。今も爽快な気分に包まれている。

 本は時々、思いがけない贈り物をしてくれる。その不意打ちの喜びこそが、まさしく本を読む醍醐味だ。

 最初はそれほど期待せずに『ニルスのふしぎな旅』を読み始めた。印旛沼のほとりで、渡りの鳥に出会ったのが再読のきっかけだった。鳥と共に空に舞い上がる話は、日本昔話にも、アラビアンナイトにもグリム童話にもある。様々なお話の糸を辿るうち、ニルスを思い出したのだった。

 図書館で、分厚い上下巻の二冊を借りた。読み始めた途端、かつて読んだ改訂版の記憶がすっかり塗り替えられた。単なる冒険譚などではなく、これほど壮大な人生哲学の物語だったとは。驚きに包まれている。

 「国の地理を楽しく学びながら物語も楽しめる本を書いて欲しい」。国民学校の先生から依頼を受けた作者のラーゲルレーヴは、地理、歴史、動植物の文献を読み漁り、各地方を丹念に取材して歩いた。動物たちを擬人化するアイデアは、キップリングの作品からひらめいたそうだ。空から眺めるスウェーデンの風景が、綿密な鳥瞰図のようにリアリティに満ちているのは、取材の賜物だろう。多種多様な植物、鳥獣の生態描写、スウェーデンの産業や地形の特色が余す所なく書かれている。綿密でありながら決してうるさく感じられないのは、骨太の北欧神話や昔話、寓話がうまく絡めてあるからだろう。

 生き物に注がれるラーゲルレーヴのまなざしは、温かくも厳しい。過酷な自然環境を生きる野生動物たちの覚悟がひしひしと伝わってくる。そしてその奥にあるのは、人間賛歌だ。人間への希望と期待。野生動物を通して、友情、勤勉、忍耐、誠意、勇気の大切さが繰り返し語られている。

 主人公のニルス・ホルゲションは怠け者で乱暴者。動物を虐めたり、意地悪をするのが大好きだった。トムテに悪戯をした罰で、ニルスは小人に姿を変えられて、「弱者」として、野に放り出される。自然界では、何をするのも命懸けだ。知恵と勇気をふりしぼって仲間を助けたり助けられたりするうちに、ニルスは、ガンのアッカやガチョウのモルテンと固い友情で結ばれていく。.......

 【メモ】「ニルスのふしぎな旅」ラーゲルレーヴ・福音館書店

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