個性光る「諸事情」日本酒 酒々井老舗蔵元「飯沼本家」が限定発売 “醸造ミス”杜氏の技で商品化

「酒々井の諸事情」をPRするスタッフ=酒々井町の飯沼本家
「酒々井の諸事情」をPRするスタッフ=酒々井町の飯沼本家
数量限定で販売している「酒々井の諸事情」
数量限定で販売している「酒々井の諸事情」

 酒々井町の老舗蔵元「飯沼本家」が、思わぬ“醸造ミス”から生まれた日本酒「甲子 酒々井の諸事情」を限定発売した。名前の通り仕込みの「諸事情」がきっかけで誕生した一本は、個性豊かな唯一無二の味わいに仕上がった。同社は「杜氏(とうじ)の底力を感じて」とアピールしている。

(佐藤楓)

 「酒々井の諸事情」が生まれるきっかけになったのは10月中旬ごろ。年に1度、搾った当日に瓶詰め・出荷まで行う看板商品の純米大吟醸「酒々井の夜明け」の仕込み期間に問題が起きた。

 本来は普通酒のタンクに入れるはずだった蒸し米と醸造アルコールを誤って「夜明け」のタンクに投入。純米大吟醸は一転「普通酒」となり、さらに高濃度アルコールの影響で酵母が弱り、発酵が止まる恐れもあったという。2本仕込むはずのタンクは1本になり生産量は大幅減。受注予約を急きょ停止し、蔵は騒然となった。

 日本酒にならない不安すらある中、杜氏(とうじ)が「一工夫で酒にならないか」と奮起。温度管理を徹底し、酵母に負担をかけない仕込みを続け、後半には麹(こうじ)を足す工夫も重ねた。結果、商品として提供できるレベルまで立て直した。

 完成した「酒々井の諸事情」は、醸造アルコール独特の角がほとんど感じられず、やわらかな甘みに酸味がアクセントとなった個性あふれる味わいになった。同社の担当者は「これまで、普通酒でどれだけおいしくできるか挑戦したり、甘みと酸味のバランスが絶妙な酒を造ったりしてきた。積み重ねてきた技術や発想が、今回の緊急時にも生きたのでは」。

 看板商品の受注を停止したにもかかわらず、ファンからは「諸事情が楽しみ」などと温かい声も寄せられた。担当者は「杜氏の技が光った一本。もちろん通常ラインナップも自信作がそろっているので、これを機に手に取ってもらいたい」とPRした。

 「酒々井の諸事情」は1760円(税込み)から。蔵元併設の店舗のほか、オンラインでも販売している。詳細は同社ホームページ。


  • Xでポストする
  • LINEで送る