2020夏季千葉県高等学校野球大会 あの瞬間を捉えた写真も多数

【千葉魂】鳥谷冷静に一気の生還 代走起用見せたベテランの業

同点の延長十回2死一、二塁から相手暴投の間に二塁からサヨナラの生還を果たした鳥谷=20日、ZOZOマリン
同点の延長十回2死一、二塁から相手暴投の間に二塁からサヨナラの生還を果たした鳥谷=20日、ZOZOマリン

 蒸し暑い真夏の夜に大ベテランがさすがの業(わざ)を見せた。全力疾走しながらの一瞬の時で全てを計算し尽くした。プロ通算2193試合に出場をしている大ベテランの鳥谷敬が走塁でチームを劇的勝利に導いた。20日のホークス戦(ZOZOマリンスタジアム)。同点で迎えた延長十回2死一、二塁。暴投の間に二塁からイッキにホームを陥れた。

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 「キャッチャーの追い方を見て、いい勝負になると思った、チャンスだと思った」
 ホームに生還した際には満面の笑みを見せて仲間たちと喜びを分かち合っていたが試合後の鳥谷はいつものクールな表情に戻り振り返った。カウント3ボール、2ストライク。投手がボールを投げると同時にスタートを切るフルカウントの場面。走った瞬間にボールが一塁側に逸れたのを確認した。全力疾走をしながらも、決してボールの位置から目を離さない。強いバウンドで飛び跳ねるボールと捕手の位置の距離感がつかみにくかったが、激しく高いバウンドと捕手の慌てた追い方を見て走りのギアを上げた。意志が連動するように三塁ベースコーチも腕をグルグルと回した。

 「ああいう場面ではいつも走り始めた瞬間からホームヘイッキに行く可能性があると心の準備をしている」と語る鳥谷が見ていたのは転々と転がるボールを必死に追う捕手の動きとホームカバーに入った投手の位置、すなわちそのラインだった。慌ててスライディングをしてまでボールを追いかけた捕手の態勢から切り替えしての的確なスローイングは厳しく、投手も捕球後のタッチの難易度は極めて高いと判断した。

 「ボールの高さなども色々と想定して走路を三塁側から反対側に切り替える選択を最初に行った。そして次が足からではなく手という判断。ホームで待つ投手に対して足から行くと操作性が難しくなるけど、内側にまわって手でタッチをすれば、なんとか、かいくぐれると思った」

 走り出した瞬間からホームタッチまで7秒。その中で鳥谷は判断し、思惑通りの結果を導いた。ボールはホームベースから三塁側に少し逸れ、ベースカバーに入った投手は態勢を崩しながらボールを捕球。鳥谷がしっかりと見定めた手はホームベースを楽々と触り、球審の手が横に開いた瞬間、幕張の夜空に歓喜の声がこだました。

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 今はスタメンで出場する機会は決して多くはないが、いつ出番が来てもいいように準備を行い、自分が呼ばれる状況を想定し備える。この試合では代走の可能性を頭に入れていた。だからベンチ裏の廊下でダッシュを繰り返し、入念に体を温め続けた。

 「あそこで代走はあると思っていた。それもサヨナラのランナーになる可能性としての出番があると分かっていた」と鳥谷。ベテランの思惑通りに井口監督も経験値を計算に加えて背番号「00」を代走に指名をした。期待通りに最短距離で走り抜け、セーフになるもっとも可能性の高い選択を行いチームを勝利に導いた。しかしその男は「神走塁ではない。冷静に、思い切りいけただけ」と軽く笑った。

 準備は日々から徹底している。ナイターでも基本的に寝るのは夜の12時で起きるのは午前7時。デーゲームでもナイターでも同じリズムを作る事で体の状態をいつでもフラットな状態に整える。早めに球場に来てウエートを行い、ショートダッシュに坂道ダッシュ、階段上りを行いマシン相手に打ち込み全体練習に臨むのが日課だ。毎日、最善の準備を行い、出番を待つ。人事を尽くして天命を待っているからこそ、結果は生まれるのだ。

 「まだまだこれから。これで終わりではなくて始まりだから」。グラウンドでは今まで見た事がないような表情で喜んでいた男はロッカーに戻るとすぐにシャワーを浴び、私服に着替えスタジアムを後にした。鳥谷はいつも若い選手たちに言っていることがある。「プロ野球は明日もある。(勝って)喜び過ぎず、(負けて)落ち込み過ぎず。切り替えが大事」と。大ベテランだからこその走塁に誰もが酔った真夏の夜も背番号「00」はいつも通りのルーティンを崩すことなく過ごした。こんな男がいるから今年のマリーンズは強いのだ。

(千葉ロッテマリーンズ広報・梶原紀章)



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