【千葉魂】 開幕で魅せた魂の投球 涌井、大黒柱への決意強く

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 うなるようなボールだった。静寂に包まれたブルペンで涌井秀章投手のボールを受け止めるミット音だけが鳴り響いた。その音から、開幕投手を任された男の魂の声が聞こえた。勝つ。ただ、それだけ。2015年シーズンの柱を任された男は、必ず勝つと覚悟を決めていた。30球目。最後はアウトコースいっぱいにストレートを投じた。パーン。27日、福岡ヤフオク!ドームのブルペンに力強い音が鳴り響いた。エースはさっそうとマウンドに向かった。

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 「先発投手なら誰でも、開幕を目指すのは当たり前。とにかく勝ちたい。チームを勢いづかせるような投球をしたい」

 キャンプから今年に懸ける気迫にみなぎっていた。若い選手の多い投手陣を引っ張る。多くは語らなかったが、ブルペンで投じるボールがその思いを物語っていた。キャンプ中盤の2月13日。ブルペンで落合英二投手コーチにお願いをした。涌井がコーチにお願いをするのは珍しい光景だった。「スイマセン。審判をしていただけませんか?仮想ソフトバンクで投げますから」。誰もいないブルペン。そこから200球。中村、柳田、内川、李大浩、松田、長谷川、本多。打席には誰も立っていないが、涌井にはホークスの打者たちが確かに映っていた。インコースにアウトコースに投げ分け、緩急を使いながら打ち取っていった。審判役を頼まれた落合投手コーチは、キャッチャーの後ろから涌井のボールを見ながら、鳥肌が立つ思いだった。これを無言のメッセージと受け止めた。

 「私は涌井を信頼しているので、基本的にすべて任せています。だから彼から何かを頼まれたのはあれが初めてでした。ボクは審判をやりながら、これは涌井からの強烈なメッセージだと思いました。『開幕戦は僕が投げますからね』という力強いメッセージでした」

 あえて報道陣もたくさんいるブルペンでホークスを想定して、敵打者の名前を、連呼しながら投げていた。それは当然のようにマスコミに報道されることも分かっていたはずだ。あまり派手な言動を好まないタイプが明らかに目立つことをした。涌井は投手コーチに開幕に懸ける熱い思いを伝え、同時にマスコミを通して、ファンにもその気持ちを伝えた。それは強い覚悟と決意の表れだった。

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 6回無失点。強力ホークス打線に立ちはだかった。六回1死一、二塁のピンチでは連続三振。力を余すことなく投じた147キロのストレートは「この日、一番の球だった」と誇った。リードはわずか2点。それでも頼れる後続のブルペン陣が残りのイニングを守り切ってくれると信じていた。ベンチに戻り交代を告げられると、フラフラになりながらもブルペンに直行した。そこでは涌井の後を受けてマウンドに向かうべく準備をしていた投手陣が緊迫した姿で投げていた。涌井は大きな声を出し、頭を下げた。

 「スイマセン。後はよろしくお願いします!」

 そのエースの魂の声に誰もが心を動かされた。ブルペンで投手陣のボールを受けていた味園博和ブルペン捕手はこの瞬間、空気が変わったことを察した。「先発投手がわざわざブルペンに『あとはお願いします。よろしくお願いします』と頭を下げに来る姿は初めて見た。そりゃあ、リリーフ投手は『やってやるぞ』となるよね。あの瞬間、みんなゾーンに入った。気持ちがさらに入った」

 後は受けたリリーフ陣は涌井の魂と共に投げた。大谷、松永、西野。猛反撃を開始するホークス打線に立ちはだかった。魂と魂のぶつかり合いとなった戦いはマリーンズに軍配が上がった。その瞬間、涌井はふうーと深呼吸をした。開幕投手の重責を果たした心地良い脱力感を味わった。「マリーンズは成瀬さんが抜けて柱がいないと言われる。別にエースと呼ばれたいとは思っていないけど、自分はただ柱になりたい」。試合後、記者に囲まれると、独特の言い回しで、静かに、しかし力強くそう口にした。

 30日。ホークスに2勝1敗と勝ち越し、マリンに戻ってきたマリーンズ投手が練習をする中で、涌井はグラウンドを黙々と走っていた。すでに次回登板に向けて気持ちを切り替え、調整に入っていた。一人だけの世界に浸るように、静かに外野センター付近で青空を見上げた。今年、一年、マリーンズの大黒柱としてチームを引っ張る。本拠地に戻って、また決意を強くした。きょう31日はQVCマリンフィールドでの本拠地開幕戦。長いペナントレースは始まったばかりだ。背番号「16」の魂の戦いは熱く、熱く続く。

 (千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)