川廻しに光当てる好機 「濃溝の滝」観光地化 千葉地理学会連載 【おもしろ半島 ちばの地理再発見】

 房総の滝の数は安房に60、上総に100、下総に10カ所ほどというデータがあります。落差は、最大といわれる南房総市の増間坊滝でも25メートルほどですが、房総の河川の上流には小さな滝がいくつもあります。その中で、養老川上流の粟又の滝は比較的知られていましたが、それ以上に大きな観光地が突然出現しました。それが「濃溝の滝」です。

 場所は国道410号を下り、鴨川有料道路に入る少し手前で、小櫃川の最上流部です。休日には駐車場が混雑し、国道が渋滞するので、道の駅君津ふれあいパーク近くからシャトルバスが運行されるほどです。

 この辺りは鴨川方面への通過地でしかありませんでしたが、インターネット上に一枚の写真が紹介されたことがきっかけで、急に評判になりました。それはまるでジブリの森のようだという写真でしたが、奥深い森とそこにあるトンネルを流れる小さな滝、そして光の差し込み方によって神秘的な光景が出現するというものでした。

 今では大手旅行会社がバスツアーを企画するまでになり、マスコミでもたびたび取り上げられ、ますます人々に知られるようになりました。現代において、新しい施設ができたわけではないのに、今まで話題に上らなかった場所が、新しい観光地になっていく過程が見られ、興味深いです。

 実はこのトンネルは、以前紹介した川廻しのための隧道(ずいどう)です。川廻しのために隧道を掘って川を短絡すると、そこに段差ができ、小さな滝ができることがよくあります。

 ここも江戸時代に川廻しが行われ、小さな滝ができた場所です。地元の人々は滝の流れの中に亀の形をした岩が見えるので「亀岩の洞窟」、そして付近の地名から「鍋石の滝」と呼んでいました。

 そこがあっという間に大観光地になってしまったので、勘違いも生じました。もともとの濃溝の滝は、川のもう少し下流の岩場にかかる急流部のことなのですが、今では多くの観光客が前述の鍋岩の滝を濃溝の滝と呼ぶようになってしまったのです。「濃溝の滝」と括弧を付けたのはそのためです。トンネルを掘った江戸時代の先人もそれを守り続けてきた地元の人々も、濃溝の滝がこんなに有名になるとは思ってもいなかったことでしょう。

 君津市では、この辺りを渓流公園として整備しています。しかし、木道の下が元は川であったことやトンネルができたわけをきちんと説明する案内板は、残念ながらまだ設置されていません。多くの観光客が訪れるのですから、川廻しを広く知ってもらうチャンスだと思います。

 ここには滝が有名になる前から、濃溝温泉という小さな立ち寄り湯がありました。硫黄のにおいのする静かな山の湯でしたが、今は利用者が何倍にもなったと受付の女性が話していました。

 (埼玉大・敬愛大非常勤講師鎌田正男)


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