2022年5月17日 05:00 | 有料記事
画・佐藤 辰作
駅前でタクシーを拾った漆原課長は、保護施設の名称と住所を告げてそこから再び長い旅路を続けた。凡そ四十分という時間田園の中を走り続け、無口な運転手との間にはその間の会話は殆ど成立しなかった。静かで澄んだ空気がどこまでも続き、時代がどれだけ進んでもこの地域に開発の波は寄せては来ない様子だった。
脱走が戯れ程度のものであるならば、逃げ隠れ出来る場所もそう多くないと思われた。両親が健在の間にもかつて一度だけそうした騒動があった。そ ・・・
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