

「ソウルー!」。野球部がチャンスを迎えるたびに、スタンドの吹奏楽部員がある「特別な曲」の演奏準備を始める―。春季関東地区高校野球大会の会場、宇都宮清原球場(栃木県)で今月22日、船橋市立船橋高校吹奏楽部に受け継がれる“魂の応援曲”が、千葉県外で初めて演奏された。
新型コロナウイルスの影響で、部員にとってはこれが初めての野球応援。ため込んだ気持ちを解放するように、打楽器が軽快な音を鳴らし、金管楽器が心を震わせる短調のメロディーを奏でる。曲の名は「市船soul(いちふなソウル)」。2017年にがんのため20歳で早世した同部OB、浅野大義(たいぎ)さんが、愛する母校に遺した「神応援曲」だ。(デジタル編集部・塚越渉)
同部顧問の高橋健一教諭(61)は、高校3年生だった浅野さんが、市船ソウルの原曲の譜面を音楽準備室に持ってきたことを今でも鮮明に覚えている。応援に適した短調のメロディー。光るものを感じたが、長すぎると思った。
「楽譜を4枚も持ってきた。応援曲では金管楽器を吹き続けるので、演奏者が疲れてしまう。大義もトロンボーン奏者。休める部分も必要」。黒のフェルトペンで楽譜の中間にバツ印を書き、よりシンプルな構成を提案した。
そうして生まれたのが、〈ソシソシドシドレ、ファー、ソーレファソ、ファ、ミファミレー〉という6小節のメロディーの後に「攻めろ!守れ!決めろ!市船!」の掛け声が続く応援曲。最後はメジャーの音で華やかに終わる。野球部の試合のチャンスに演奏され始めると「得点が入る」と言われ、ついには「神曲」と呼ばれるようになった。
何度も繰り返される6小節を聴くと気分が高揚する。なぜ市船ソウルは人を引きつけ、愛される曲になったのか。
高橋さんは「日本人は演歌好きで、短調の曲を覚えやすい。野球応援曲も短調が多い。短調は心が燃える」と説明。加えて「大義の人間としての魅力、素晴らしさが市船ソウルをここまでの曲にしたんだと思います」とも語った。
◆チャンスに演奏、得点呼ぶ
市立船橋高校野球部の関東大会初戦の2日前、同校第三体育館の地下では、吹奏楽部が控えの野球部員、ダンス部と合同応援練習を行っていた。野球応援は入学後初めて。しかも県外遠征。上ずる気持ちと緊張感が入り交じった表情で練習に臨んでいた。
一通りレパートリーを演奏した後、市船ソウルの練習が始まった。一音一音をしっかり確かめる部員たち。部長の山田千裕さん(17)は「3年生はコンクールがあり、夏は野球応援に行けない可能性がある。最高のパフォーマンスをしたい」。最初で最後になるかもしれないからこそ、熱がこもった。
迎えた22日、野球部は第2試合で埼玉県の山村学園高校と対戦。プレイボール直後、雲の隙間から青空が見え始めた。
市船ソウルの出番はいきなりやってきた。1回裏、先頭の三浦元希選手が三塁打で出塁。スタンドでファンファーレが鳴り響いた後、「ソウル!ソウル!ソウル!」の声が発せられた。





