

エクアドル南部アマゾン熱帯雨林に住む先住民、シュアール族の暮らしを追ったドキュメンタリー映画「カナルタ 螺旋状の夢」が公開中だ。現地に赴き約1年間の調査と滞在撮影を行ったのは、本作がデビュー作となる、千葉市緑区在住の太田光海監督(32)。驚きの連続だったという先住民との生活や映画製作のきっかけについて語ってもらった。(溝口文)
-作品の着想は2011年に発生した東日本大震災と福島第一原発事故とのこと。
「発生直後にということではなく、震災に衝撃を受け、3年くらいかかってアマゾン熱帯雨林で映像を撮るというプランが浮かんだ。当時はパリにいて、発生直後はひたすら全メディアがトップ扱い。ものすごい衝撃で、日本だけの問題ではなかった」
「そもそもなぜこれほどエネルギーを必要としているのか。電気というのは人類の最初からあったわけではないし、自分たちがこの生活を維持しなければならない理由はない。本当に必要なものとそうでないものを考えたときに、自分とは全く違う、大自然の中で自給自足をしている人たちが、自然に対してどのような態度で接しているのかということを知りたくなった。そこでアマゾンの森に住む先住民にたどり着いた。ひどい汚染を受けた日本と、失われつつあるアマゾンの森に住む先住民、もしかしたら共有できる感情があるのかもしれない、と」
-現地で一番衝撃を受けたことは。
「シュアール族の森に対する知識。種の多様性があるアマゾンの木、虫、動物、全部の名前を覚えている。アマゾンに存在している植物はいまだ科学的に調査されていないものもたくさんあるが、彼らは自分たちの言葉でほぼ把握している。科学で解明されている部分とされていない部分の間にはすごくギャップがあって、彼らはその先に行っている。それを体感したときに世界はなんて未知に溢(あふ)れているんだと思った」
-作中では覚醒植物を使用して「ヴィジョン」を見るシーンがある。あの行為はシュアール族にとってどのようなものなのか。
「映画には『アヤワスカ』などが出てくるが、あれを飲むと、いわゆる幻覚作用を引き起こす。ただ、彼らはそれを植物が与えてくれるリアルなヴィジョンとして認識しており、自分の人生を考える時間と捉えている」
-神の啓示のような認識なのか。
「受動的にお告げを受け取るというよりは、自分の意識で強く念じたり考えたりすることで、見えるヴィジョンが自分の意志通りになることがある。啓示というよりは、植物との対決のように捉えているかもしれない。劇中でも吐いてしまうシーンがあるが、気を許すと全てを持って行かれてしまうようなしんどい体験で、彼らにとっては教育の一部」
「快楽はなく、依存性もない。実際にアマゾンで行われているアヤワスカを使った儀式というのは、いわゆる快楽を求めるドラッグカルチャーとは全く違う形で行われている」
-タイトルにもある「カナルタ」の意味は。
「寝る前に使う言葉で『おやすみなさい』という意味。同時に『良い夢を見てくれ』でもあるし、覚醒植物でヴィジョンを見るときにも『良いヴィジョンを見ろよ』という意味でも使われる」
-シュアール族にとって自然とは何か。
「自分と一体化しているものだと思う。これがなかったら自分たちは死ぬという危機感を常に抱えて生きている。劇中でもセバスティアンが『森を破壊するのは自分を破壊するのと同じ』と言っている。あれは誇張でも何でもなく本当にそういう状況下で彼らは生きているということ」
-読者へのメッセージを。
「世界には色んな生き方をしている人たちがいて、一見それは相いれないように見えるかもしれない。しかし、生身の人間としての姿に向き合ってみると意外とそう遠くない存在なのかもしれない。自分が持っている自然や環境とのつながりにちょっとでも思いをはせていただけたらうれしい」
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【作品データ】監督・撮影・編集・録音=太田光海。上映時間=121分。配給=トケスタジオ。シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
【あらすじ】セバスティアンとパストーラは、エクアドル南部のアマゾン熱帯雨林に住むシュアール族。かつて首狩り族として恐れられたシュアール族は、スペインによる植民地化後も武力征服されたことのない民族として知られている。口噛み酒を飲み交わしながら森に分け入り、生活の糧を得る一方で、「アヤワスカ」をはじめとする覚醒植物がもたらす「ヴィジョン」や自らが発見した薬草によって世界を把握していく。森と共に生きる彼らにある日、試練が訪れる…。