
お姉ちゃんの洋服を妹に着せたり、使わなくなったおもちゃを近所の子にあげたり…。こうした「お下がり」文化は、少子化や近所付き合いの減少で昔に比べて薄れてきたように見える。しかし近頃、現代ならではの形で復活してきているのをご存じだろうか。物価高騰に伴う節約志向やSDGs意識の高まりを背景に、ネットを介して不要品をやり取りする掲示板サイトが活況を呈し、学用品専門のリユースショップも登場。行政も育児用品の譲渡を促すなど後押しする。「令和」のお下がり事情を取材した。(デジタル編集部 町香菜美)
行政がリユースを後押し

市川市の子育て支援施設「八幡親子つどいの広場」の一角にある「リユースコーナー」。長女(10カ月)の洋服を選んでいた主婦、岩佐知美さん(30)は、周りに子育て中の友人がいないといい、お下がりが無料で得られる場をありがたがっていた。
「着なくなった服を使ってほしい」との利用者の発案で始まった同コーナーは、子ども服などを利用者が提供し、別の利用者が無料で譲り受けることができる。洋服はサイズごとに置かれ、甚平のような季節物もそろう。
「自分では手にとらないような服も着られる。すぐ汚れるので気にせずどんどん洗えるのもうれしい」と岩佐さん。広場を利用する他の「先輩ママ」が一緒に子どもの洋服を選んでくれることもあり、着やすい服やサイズ感などリアルなアドバイスを受けられることもメリットのひとつだという。

広場の開所当時から携わるスタッフの花蜜ユカ(49)さんは「口コミで広まり、子育てを終えた世代の人が持ってきてくれることもある。ここから地域の交流が始まっている」。スタッフの三宅敦子さん(50)は「私たちの時代は『人が着た服なんて…』という抵抗があったが、今の親たちは抵抗や無駄もなく賢く使っている」と感心する。
ネットで譲り合い

インターネット上でも「お下がり」のやり取りが広がっている。広告掲示板サイトを運営する「ジモティー」(東京都)では、ネット上で不要品の情報を紹介するサービスを展開。売り買いだけでなく無償で譲渡することも可能だ。1点だけでも取引できるが、「子ども服 95センチ」「ベビーおもちゃ詰め合わせ」などと複数をまとめて投稿するケースも目立つ。
出品した物は基本的に相手側の自宅近くや最寄り駅で取引するため、同社担当者は「取引したことがある近所の人と知り合いになり譲ってもらう機会が増える場合がある」と説明する。出品者側も、粗大ごみとして処分する費用や手間を省ける利点があるという。

利用者からは感謝の声が寄せられている。担当者によると、「大切な思い出のあるおもちゃは捨てるのが忍びなく、次の人に使ってもらえて良かった」「使わなくなった子ども服を捨てるのは気が引けるので、どなたか大切に使ってくれる人がいればうれしい」といった声や、「子どもの成長は早いので助かる。自分でもらうだけでなく、自分でも他の人に譲って良い循環をつくっていければ」などの感想が上がっている。
制服のリユースショップも
「お下がり」をビジネスとする専門店も現れている。学生服・学用品のリユースショップの「ゆずりばいちかわ」(市川市)は、2018年にオープンした千葉県内初の"お下がり専門店"。創業のきっかけは、代表の石垣瑠美さん(37)の長男の小学校入学。2児の母である石垣さんは、結婚を機に同市に移り住み、その後さらに市内で転居。そのため親同士のつながりがなく、平日も仕事に追われていたため、学生服など備品の購入に関する事前情報が少ないことに困っていた。
少子化や近所付き合いの減少でお下がりをもらう機会も少ない時代、「地域の情報交換ができる場所をつくりたい」との思いもあった。譲り受けた制服は洗濯やアイロンがけなどのメンテナンスを行い、定価の3分の1ほどで販売。親たちのニーズを取り込み、商売は順調だ。
石垣さんは「お下がりの抵抗感が薄れ、次の人に使ってもらおうという意識が高まっていると感じる。また、リユース品がコストパフォーマンスを意識しての選択肢の一つになってきている」と話す。

小学6年の次男(11)の中学校の制服を相談していた市川市の主婦(45)は「上の子は私立なので制服のお下がりがない。制服は高いし、すぐ小さくなる可能性もあるのでリユース品も候補に入る」とうなずく。
値上げの波 子育て世代にも
「現代版お下がり文化」の活況の背景には、子育て世帯を直撃している値上げの波がある。浜銀総合研究所(横浜市)の調査によると、粉ミルクや紙おむつなどベビー用品の7月の物価上昇率は前年同月比7・1%。7月の消費者物価指数全品目の上昇率に比べ2・2倍となっている。物価高に賃上げが追いつかない中、子育て世帯の負担は特に増している。

リユース品への現代人の抵抗感が下がっていることも後押ししている。インターネットなどを通じて他人と物や時間を共有する「シェアリングエコノミー」に詳しい情報通信総合研究所の山本悠介主任研究員は、「高度経済成長のころは所得を増やし、高級品などを買って所有することが幸せにつながった。しかし、日本の成長が止まってからは右肩上がりに所得が増えるような状況でなくなったので、節約志向が強くなり、リユース品を好んで使う人が増えた」と分析する。

社会・経済の持続可能性を高めることが重要だというSDGsの考え方が若年層を中心に浸透していることも要因。「新品を買うよりリユース品を使う方が地球に優しいと考え、好む人が増えた。環境に配慮している人が周囲から高く評価されやすいことも影響しているのでは」と山本氏は言う。
また、効率性を追求する動きが強まったことで「すぐに成長して使えなくなってしまう子供用品はリユース品を使う方が効率的と考える人が増えた」と説明。「昔はリユース品を使うと『所得が低いと見られるから恥ずかしい』と感じる人も多かったかもしれないが、そのような感覚が減ったのでは」と現代の「お下がり」文化を解説した。
※この記事は千葉日報とYahoo!ニュースによる共同連携企画です