本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「観察」 『生き物の描き方』

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 知っていると思っていたら、実はよく知らなかった、という事は多い。

 自然遊びの本の挿絵を描いた時、しばしば立ち往生した。子供向けの本なので、写生ではなく漫画風に描いたのだが、ひとめでそれとわからなければ意味がない。蝉の羽化の絵に泣かされた。どうしても形にならない。図鑑やPCでも、全体のバランスがつかめなかった。そこで、庭を探すと、季節はずれの蝉の抜け殻が見つかった。スケッチして、やっと仕上げた。でも、やはりどこか変だった。虫の場合は、足の付き方、頭と体のバランスが決め手になる。昆虫を見る機会があっても、ただ漫然と見ていただけで、観察できていなかったのだとつくづく思い知らされた。

 私はものを情緒的に眺めている事が多い。その時の目は、フィルターがかかった広角レンズだ。見たいものもぼうっと見ているし、興味のないものは目に入っていないらしい。時には、顕微鏡のような目でものをじっくり見たいものだ。

 そんな時、盛口さんの本をネットで見つけた。昆虫や植物のイラスト図鑑だと思い込み、しめしめこれさえあれば……と届くのを楽しみに待っていた。届いた本は、絵より字の方が多かった。しかも、頭蓋骨や糞、植物の分解図、ペレット(胃の内容物)、クモ、毛虫……どれも好ましい絵とはいいがたい。しかし、読みだしたら、思いがけず楽しめた。見たくないもの、見ようとしないものの中にこそ、生きる秘密や命の謎解きのカギが隠れているような気がしてきた。

 著者の盛口さんは、小さな時から生きもの好きだったらしい。フィールドノートと呼ばれる記録帳を、中学生の頃からこまめに付けていた。十五年間の高校教員時代、発行していた『飯能博物誌』は1400回に及ぶ。最初は「教員としての伝える思い」ばかりが先行していたが、自分が描きたいものを描くようになったとたん、生徒たちの反応が俄然良くなってきたそうだ。スケッチの極意は、まさにそこにあった。「描きたいものを描く」こと。

 「上手にウソをつく」ことも忘れてはならない。そして、ウソはつきとおすこと。この場合のウソというのは、作者の主観を指す。正確に描けば伝わるというわけではなく、意図的にデフォルメしたり、省略することで、伝えたいものが明確になる。.....
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 【メモ】「生き物の描き方」盛口満・東京大学出版会

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