本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「かぶる」 『イエペはぼうしがだいすき』

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 昨年の秋、近所のギャラリーで帽子作家さんとの出会いがあった。根津に工房を構えていらっしゃる「やぶさいそうすけ」さんで、素敵な帽子を丁寧に作られる方だ。

 私は帽子が好きだけれど、似合う帽子を見つけるのは本当に難しい。見る分には素敵でも、いざ自分がかぶるとなると、気後れして諦めてしまう事が多い。

 アメリカにいた頃、黒い麦藁帽子をデパートで買った。店員さんがはっきりと「あなたには似合わない」と忠告してくれたのに、どうしても欲しくて半ば強引に買い求めた。かぶっていたら「グランマ・ハット」と、語学教室のフランス人から渾名を付けられた。「そういう帽子はフランスではよくおばあさんがかぶってるよ」すっかり自信をなくしたものの、高かったので、夏の間かぶり通した。その帽子は、海水浴中に波を受けて形が崩れ、とうとうお払い箱になった。

 不思議なもので、かぶり続けるうちに、帽子はその人に同化していく。同化しながら自己主張してくれる。帽子がトレードマークになりやすいのは、そんな理由もあるのだろう。

 昨年の夏、孫が麦わら帽子を愛用していた。かぶらせる時もひと苦労だったが、秋風が吹く頃に脱がせるのにも娘は苦労したらしい。それを聞いて「そうだ、冬用の帽子を『やぶさい』さんに作ってもらおう」とお願いした。有難い事に、快く引き受けてくださった。

 娘と孫たちと一緒に根津を訪ねた。言問通りの道沿い。工房はゆかしげな佇まいで見つかった。懐かしい格子ガラスの引き戸。板張りの壁。コンクリートの床。ストーブの上で、しゅんしゅんとやかんが音を立て、ミシンやアイロン台がどこか人くさい恰好で部屋に居座っている。棚には暖かそうな布地がふんわりと積まれ、形に成るのをおとなしく待っていた。

 「子供はかぶる期間が短いけれど、なるべく長くかぶれるように……」そうおっしゃって、割が合わない仕事なのに、丁寧に打ち合わせをしてくださった。

 「やぶさい」さんと知り合った時から、私は一冊の絵本を心に思い浮かべていた。

 『イエペはぼうしがだいすき』。子供が主人公の写真絵本だ。カメラマンの石亀さんは、コペンハーゲンの公園で、茶色の帽子が似合う男の子、イエペに出会った。三歳のイエペは、帽子を百個持っていた。中でも、おじいちゃんからもらった茶色のソフト帽が大好き。ちょっとぶかぶかのその帽子を、イエペはいつもかぶっている。......

 【メモ】「イエペはぼうしがだいすき」石亀泰郎・文化出版局

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