本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「声」 『ソクラテス耳をすます』

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 「クリスマスは過去と未来と現在が交錯する日」。そんな言葉を外国の書物に見つけた。クリスマスを大晦日のような感覚で捉える人もいるのだ、と新鮮だった。だが「時」は決して戻る事はないし、早く巡り来る事もない。過去や未来との交錯は、人の心の領域で起きる。出逢った人、別れた人。嬉しい思い出、辛かった思い出。すべてが心の中で巡り会う。それらは感情の渦となり、言葉となって溢れ出す。思いが深まる年の瀬。新しい年への期待もふくらみ始めるだろう。今年は命について考える機会が多かった。来年もまた、出逢いと別れの中で、言葉を大切に紡いでいきたい。

 数年前、埼玉の友人宅で語りの会が開かれた。会場に本の案内が置いてあり、表紙に描かれた猫のイラストに目が止まった。灰色の長毛猫で、大胆不敵な顔つき。それが『のらねこソクラテス』との出逢いだった。親しみを覚えたのには、わけがある。我家の猫と風貌が似ていたからだ。そばにいらした作者の山口タオさんに、思わず話しかけた。「ソクラテスって、うちのクロとそっくり」以来、山口さんとは猫友達だ。山口さん云うところの「にゃんげん仲間」として、おつきあい戴いている。

 子どもたちに大人気の『のらねこソクラテス』シリーズだが、私の一番のお気に入りは『ソクラテス耳をすます』だ。面白くて優しいお話の中に、生と死の哲学が見え隠れする。

 ソクラテスは、サクラ公園に棲みついている野良猫だ。人間の言葉を話し、絵本が大好き。小学生のカズヒコは、絵本をきっかけに彼と友達になった。クリスマスが近いある日。公園に行くと、ソクラテスは枯れ葉の中のボロボロの赤とんぼを見ていた。「何見てるの?」カズヒコが聞くと、彼は答えた。「見てるんじゃねえ。聞いてるんだ」彼は死んでいくトンボの「サヨナラ」を聞いていたのだった。「しゃべらない小さな虫だってな--死ぬときはさよならっていってくんだぜ」でも、カズヒコの耳には、虫の「さよなら」は聞こえなかった。その日、カズヒコは子犬を拾う。家に連れ帰ると、ママは猛反対。子犬のチョビは、ソクラテスと公園で暮らす事になった。チョビに会う為、真面目に宿題をするようになったカズヒコ。何も知らないママは大喜び。やがて雪が降って、外はホワイトクリスマス。でも、公園に行くと、チョビが消えていた。雪をかき分けて、カズヒコとソクラテスは懸命に探す。必死に耳をすませる。

 ドキドキハラハラした後には、嬉しいハッピーエンドが待っている……。......

 【メモ】「ソクラテス耳をすます」山口タオ・岩崎書店

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