本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「匂いたつ」 『花仙人』

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 昔、中国の長楽村という小さな村に、秋先と言う名の老人が住んでいた。「花きちがい」と呼ばれるほどの花好きで、珍しい花があれば、金があろうとなかろうと花を買い、いつしか秋先の庭は見事な花園になった。

 秋先の一日は花と共にあった。花の一本一本に丁寧に水をやり、蕾が開きかけている花があれば酒や茶をお供えした。「花万歳」と三声繰り返し、花が咲くのを静かに待った。花がしぼむ時は涙を流し、散った花びらを集めて瓶に入れ、お酒を供えて「花のお弔い」をした。何よりも花が大事だったので、花が折られるのを怖れるあまり、決して人を招かなかった。

 ある日、張委というならず者が、手下を引き連れて庭に押し入り、秋先が丹精こめた花をめちゃめちゃにしてしまう。へし折られ、花びらをむしりとられた花の前で、嘆き悲しむ秋先。そこに美しい娘が現われて、「落下返枝の術」を施す。花々は見事に生き返り、秋先は今までの自分の心の狭さを恥じて、庭を村人たちに開放する。ところが張委の策略で、秋先は妖術使いの咎で牢に入れられてしまう。最後は、美しい花の精によってならず者たちには天罰が下り、秋先は、花仙人になってに天に昇る。

 初めから終いまで、美しい牡丹の花のイメージとかぐわしい香りが立ち込める。勧善懲悪のあらすじに、ほっと安堵のため息が漏れる。中国の画家、蔡皋(さいこう)さんが美しい絵を描いたこの絵本では、花の精も牡丹の花も、柔らかくあでやか。桃源郷を思わせる中国の山村の風景が、夢のように再現されている。

 昔、松岡さんの「花仙人」の語りを聞いた。東京子ども図書館のお話会だったかどこかの講習会だったか、場所が思い出せない。その時は牡丹よりなぜか菊の花が思い浮かんだ。と菊の香りの中にいた記憶が強いので、季節は晩秋だったのだろうか。松岡さんの語りを聞きながら、私は子供の頃に読んだ「中国昔話」の中の菊の精の物語を同時に思い出していた。それで、菊の花の記憶が重なってしまったのかもしれない。......

 【メモ】「花仙人」松岡享子・福音館書店

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