あらわになった社会を取り巻く課題 -格差と分断- 信頼と思いやり構築を 千葉県立保健医療大学長・龍野一郎 【医療現場からコロナ禍の羅針盤 情報提供とアドバイス】(14)

 まず、不幸にして、新型コロナウイルス感染症に伴って、健康、そして日々の生活に影響を受けられた皆さまに謹んでお見舞いを申し上げます。

 東京オリンピック・パラリンピックでのアスリートの活躍はわれわれを励ましてくれましたが、デルタ株の感染拡大に伴って襲来した第5波の影響は甚大で、多くの自宅待機者を生み、不幸な転帰をとった方々が少なからず出たことは医療者の一員として大変残念であり、無念でもあります。

 今回のコロナ感染症の中で強く感じることは社会構造自体への影響です。ワクチン接種についても、接種を希望する人、できない人、希望しない人に分かれ、大きな議論になっています。

 ワクチン接種は基本的に個人の自由です。とは言いながら、正確な情報提供が大前提です。しかし、学問の杜である大学でさえ、偽情報が流れ、正確な判断をできない状況(情報格差)に悩む学生が少なくないように思います。現在、いかに学生の皆さんに正確な情報を届けるかに腐心しています。

 また、コロナ禍によって学生の皆さんは対面のコミュニケーションが制限され、分断・孤立化し、また、アルバイトの減少による経済的理由(経済格差)により休学や退学を考えているケースも出ています。一般社会で状況はもっと深刻に推移していると思います。ただ、これらの分断と格差の問題はコロナ禍でもたらされたのではなく、内在していたものがコロナ禍によって顕在化し、より深化したものと思われます。

 昨年、トランプ前米大統領がコロナウイルスをチャイナウイルスと呼び、その結果アジア系米国人への嫌がらせが大きな問題となりました。米国は旧英領13植民地が英国との独立戦争に勝利し、その13州が連合国家として建国、その国是は移民した多民族の融合であったはずですが、そのほころびを垣間見せ、われわれに大きな失望を与えました。そこにはいまだに内在する民族間の経済、文化を含めた格差と分断の問題が影響を及ぼしていると考えられ、世界中にも広がっています。

 それでは今後、分断と格差の問題は日本ではどうなるのでしょう。日本にはコロナウイルス感染症以外にも、人口減少(少子高齢化)、貧困、都市部への一極集中、ソサエティー5・0(技術革新社会)の到来は我々にとって大きな喫緊の課題です。少子高齢化では若者と老人の分断、貧困は経済格差、都市部への一極集中は都市と地方の分断、ソサエティー5・0でさえも情報難民を作る可能性が危惧もされています。

 このような中でわれわれ日本人に必要なものは何でしょうか? それは分断と格差を埋めるための基本的な社会構造である互いの信頼と思いやりの構築だと思います。

 もともと、そう古くない日本には隣組、鍵のいらない近所関係などといった社会関係資本(ソーシャルキャピタルと欧米では言われています)がありました。その再構築を目指して、コロナ禍の今こそ、社会のための個人の忍耐、寛容、そして他者への共感が必要であることを痛感しています。

◆コロナ禍であらわになった分断と格差

世界に広がる社会基盤のほころび

互いの信頼と思いやりのある社会の再構築

忍耐、寛容、そして共感


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