本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「未来へつなぐ」 「おとなになれなかった弟たちに…」

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 夏が近づくと、心の中に一人の少年が現われる。小学四年生のその子は、白く乾いた校庭に座り込み、棒で土をほじっている。地面からは、黒い炭のかけらが出てくる。それは人を焼いた炭のかけらだ。みつめる彼の瞳には、母の面影が浮かぶ。彼の家族は原爆で死んだ。爆音と閃光――一瞬にして奪われたたくさんの命。運動場いちめんに転がった死体は、木を集めてその場で焼かれた。みるみる骨になっていく母の姿を、少年は見ていた。

 この少年は、原爆の手記「この子たちの夏」に登場する。地人会の朗読劇「この子たちの夏」を自主上演した時、私は彼の手記を読んだ。朗読劇ではあったが、暗記して言葉を自分のものにするところから練習は始まった。味わったことのない感情を、乏しい経験に照らし合わせながら形にしていくのは難しかった。読み込んでボロボロになった台本は、今でも大事にとってある。台本を開く度、広島と長崎の「あの時」の夏が甦る。戦後生まれの私にとって、それは疑似体験でしかない。だが、疑似体験であっても、夏が来る度に廻って来るこの思いは鮮烈だ。体験のない私が戦争を語るのはおこがましいと思いながら、哀しみから得られたものを未来へつないでゆくために、何かしなければと言う気持ちになる。

 昨年の冬、島筒秀夫さんのピアノの弾き語りで、「おとなになれなかった弟たちに…」を聴いた。ひもじさから弟のミルクを盗って飲んでしまう兄の心を中心に、赤ん坊のまま逝ってしまった子に対する母の思いが、ピアノの調べと共に語られた。島筒さんは盲目のピアニスト。明朗な精神の持ち主で、湿っぽくなりがちな話を力強く語ってくれた。

 「この弾き語りの後では、いつもベートーベンの『ソナタ二楽章』を弾くんです」。島筒さんはそうおっしゃって、ピアノに向かった。ソナタの穏やかで柔らかな旋律が、知らずこわばっていた体と心をほぐしてくれた。語りによって湧き上がった怒りや哀しみの感情が、ゆっくりと鎮まってゆくのがわかった。その時、「赦し」という言葉を思い浮かべた。或いはまた、「受け入れる」ということを。おそらくそれは、障害を克服された島筒さん自身の人生観でもあったのではないだろうか。

 「おとなになれなかった弟たちに…」の絵本を、コンサートの後、初めて手にした。まっさきにあとがきを読んだ。...

【メモ】「おとなになれなかった弟たちに…」/米倉斉加年/偕成社

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