本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「贈り物」 『世界は一冊の本』

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 千葉日報社主催の千葉文学賞を戴いた時に、記者の方から、紙面に書いてみませんかと誘って戴いた。当時、幼児の絵本講座を受け持っていたので、即座に「では、絵本のことを書かせてください」とお願いした。十回連載の後、更に大きく誌面を割いて戴き、絵本から本全般についての連載が始まった。「本の贈り物」というタイトルは、まさに、私が書物から受け取った様々な贈り物を意味する。励ましを、ユーモアを、啓示を、勇気を、感動を、怒りを……本からもらった沢山の思いが、私の心に積もっている。重いしこりになって残ったものさえ、今はそれも贈り物だったことがよくわかる。負の感情は私を立ち止まらせ、謙虚になるようにと諭してくれた。物語の中で拾い集めた美しい言葉は、現実世界での迷いやつまずきの度に、私の道標になって足もとを明らかにしてくれた。

 子供の頃は親に隠れて本を読み耽ったし、友人の家では、遊びそっちのけで本棚に張り付いていた。セリフを覚えて主人公になりきって遊んだりもした。

 私の蔵書は、幾度もの引っ越しで減ったり増えたりを繰り返したが、今、手元に残っている本は、多分、最後まで私のそばで明りを灯してくれるだろう。

 連載にあたって、改めて読み返した本は多い。新しい発見もあったし、懐かしい昔の感情を呼び覚まされもした。思いを文章にすることは、深い思考へとつながることにも気づいた。読み込むほどに、どこまでも深く遠く精神の旅ができるのだと、本からの贈り物を、今、感謝の気持ちで受け止めている。

 この連載はエンデの『モモ』から始まった。時間を奪う灰色の男たち。彼らは、数年前のその時より、現実の中で更に数を増し、私たちの暮らしを脅かしている。エンデの警告は、まるで役に立っていないかのような勢いで、人々はより忙しく、より便利なほうへと流れて、心との対話をおろそかにしている。加速度がついた世の中の流れを止めることはできないだろう。だが、その流れを少しでも良い方向へと変えて行くことはできるのではないだろうか。処方箋は想像力であり思考力だ。何もかもを他人(機械も)任せにしないで、思考しよう、想像しよう。その時間を無駄だと思わないようにしよう!

 たとえ一粒の丸薬で喉の渇きが癒せるとしても、歩いて遠い井戸に水を汲みに行こう。サプリメントで栄養が摂れたとしても、時間をかけて、コトコトとスープを煮込もう。

 コラムで取り上げてきた本は、その時々の私の心の振子に合わせたものなので、私家版もあれば絶版になったものもあり、読もうと思っても手に入らないものも多かった。そんな気ままなコラムに長い間お付き合い戴き、本当にありがとうございました。最後に、長田弘さんの詩をお礼の言葉に代えて。

 「本を読もう。もっと本を読もう。もっともっと本を読もう。/書かれた文字だけが本ではない。日の光り、星の瞬き、鳥の声、川の音だって本なのだ。ブナの林の静けさも、ハナミズキの白い花々も、大きな孤独なケヤキの木も、本だ。/本でないものはない。世界というのは開かれた本で、その本は見えない言葉で書かれている。(中略)/人生という本を、人は胸に抱いている。一個の人間は一冊の本なのだ。(中略)/200億光年の中の小さな星。どんなことでもない。生きるとは、考えることができるということだ。/本を読もう。もっと本を読もう。もっともっと本を読もう」。

 【メモ】「世界は一冊の本」長田弘=おわり

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