本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「音色」 『バイオリンの村』

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 信州南木曽に、夫の実家があった。伊勢湾台風の時の風倒木を使った義母自慢の総檜造りの家だった。義母が亡くなり、家は二年前に取り壊された。山に囲まれた小さな町。義母は窓から、猿が電線を綱渡りするのを眺め、木曽川の音を聞いて暮らしていた。林業が盛んな町には、製材所や漆器の店が点在する。初めて南木曽を訪れた時、製材所のそばの道で、木屑がもくもくと動いていた。だが、木屑と思ったのは、大きなミノムシだった。それまで枯葉をまとったミノムシしか見たことがなかったから、木曽ではミノムシまで総檜造りなのだと驚いた。

 義母が愛用していた木工品の中に、飴色に光る茶托があった。バイオリンの肌を思わせる光沢。尋ねてみたら、やはりバイオリンの端材で作られたものだった。木曽福島にバイオリン工場があり、叔父(義母の弟)がそこで働いていたので、いくつか貰ったらしい。

 先日、友人から一冊の絵本を手渡された。「バイオリンの話なんだけど、読んでみて」。友人が語るあらすじを聞いて、私は木曽福島のバイオリン工場と義母の茶托を思い出した。

 絵本の舞台は、信州から少し離れた岐阜県恵那市。中野方と言う小さな村落だ。

 著者の赤座さんは中野方を訪ね、夕刻の家々からバイオリンの音色が流れてくるのを聞いて驚いた。「こんな山奥の村でバイオリン?」中野方には戦時中にバイオリン工場が疎開してきて、村の人たちはバイオリンに親しんでいたのだった。思いがけず耳にしたバイオリンの音色が、赤座さんの心に創作の灯を点した。

 「わたしたちのくにがせかいのくにぐにをあいてにせんそうをしていたころのことです……」と物語は始まる。山あいの小さな村に、のずえ先生夫婦が疎開してきた。空襲で丸焼けになった街から逃げてきたのだった。かねばあちゃんの家の離れに住むことになった先生たちは、ばあちゃんから畑仕事を教わった。そして夕方、バイオリンを弾いた。初めて聴くバイオリンの音に、ばあちゃんは驚いた。ユーモレスクの調べは、ばあちゃんの心を、遠い南の島で戦死した息子の所に連れて行ってくれたからだ。先生は毎晩、バイオリンを弾くようになり、観客は一人二人と増えていった。....

 【メモ】「バイオリンの村」赤座憲久・小峰書店

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