本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「滅びる」 『クマともりとひと』

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 友人が住む高層マンションの最上階から、外を眺めた。青い空。思いがけない程近くに、筑波山の二つの峰があった。手前には、印旛沼が光っていた。

 「沼の左にこんもりした森があるでしょ、あれは印旛沼公園。春になるとあの森全部が桃色になるのよ」

 友人が指差した晩秋の森は、深い緑色をしていた。

 模型のような家々、鉄塔、ガスタンク、道路……目を細めると、それらは緑と灰色のモザイク模様に変わる。

 「緑がずいぶん残っているね」と言いかけて、その傲慢な言葉をすぐに恥じた。「ずいぶん」ではない。「これしか」緑は残っていない。

 ここが一面の森だった頃、たくさんの獣や鳥たちが暮らしていた。わずかに残った緑の中へ逃げ込み、彼らは開発の音に耳をすます。

 道路に横たわる狸の姿を思い出した。死体を避けてハンドルを切り「ごめんね」とつぶやくのが精一杯。発展の恩恵の中で暮らす私達に<彼ら>は無言でささやく。「自分タチサエ良ケレバ、ソレデイイノカ!」と。私の街だけの話ではない。日本中で起きている事だ。

 熊が里に下りてきて射殺されるニュースを、今年もまた悲痛な思いで聞いていた。そんな中、友人が『クマともりとひと』を届けてくれた。絶滅の危機にあるツキノワグマを救おうと立ち上がった、兵庫県の理科教師・森山まり子さんと教え子たちの物語だ。

 「オラ、こんな山嫌だ。雑木消え腹ぺこ、眠れぬ。真冬なのに里へ……射殺」の見出しで始まる新聞記事を元に生徒がレポートを書いた。それを読んだ森山先生は「日本熊森協会」を設立する。生徒たちも、熊を救おうと猛勉強して行政に立ち向かう。マザーテレサの言葉「愛は言葉でなく行動である」を実践した、自然保護運動の記録だ。読みながら、人間が犯してきた過ちに、止むに止まれぬ気持ちになった。自然林を失って痛手を受けるのは、獣だけではない。人間の未来にも、大きな黒い影を落とす。

 かつての日本人は、山地を動物と棲み分けていた。里山は人が入って手入れをし、山の恵みを分けてもらう場所。そこでは人と獣が密やかに交流を果たす。奥山は、人が立ち入れない聖域。奥山にはブナやミズナラなどの広葉樹が茂り、落葉が分解された地面は水を保ち、水が湧く。多様な下草が育つ。獣は十分な餌を森からもらう。爪で土を引っかき根っこの成長を助ける。糞や屍は肥料となる。昆虫は受粉の手助けをし、実をならせる。鳥は木の実をついばみ種を蒔く。自然林はあらゆる生物と共存しながら、豊かな水と土壌を作り上げていく。そこには美しい循環があるばかりで、欲や儲けは微塵もない。......

 【メモ】「クマともりとひと」森山まり子(日本熊森協会会長)・合同出版

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