風土の陰影と祈りを描く 片岡伸詩集「なみだ雨」

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私は沈黙するものに心惹かれる

押し殺した気持ちを深くうずめて

微動だにしないものを慕う
(「石の呼吸」より)

 いすみ市岬町に生まれ、現在も同町在住の片岡さんによる3冊目の詩集。片岡さんは二科会写真部展の推薦受賞した写真家だが、千葉日報読者文芸「日報詩壇」(中谷順子選)に投稿したことから詩作を始め、現在は日本現代詩人会に属する実力派で、生活の陰影を見つめる作風が注目されている。

 本書は生まれ育った夷隅川を描く2冊目の詩集から、さらに踏み込み、今も土地に残る風習や祭りや念仏講を取り上げ、そこに生きる人々の祈りを通して、微動だにしない生を追ったもの。

 「ふた重に曲がった腰を引きずり/皺深い手で鍬を振るいながら/黙々とくろを塗る老いた女がいた」(「くろ」より)

 土地に嫁ぎ、くろ(注・畦のこと)の内側に己の居場所を作り守って生きていく女や、黙々とくろを塗る老婆の姿に、片岡さんは生の悲哀とその本質を浮び上がらせる。老婆の姿は、泣きながら産まれ、代々受け継がれてきた生活を守り、押し殺した気持ちをうずめて、昔からひっそりと暮らしてきた村人の姿を代表している。

 重ねてきた時間の陰影や不在の重さを問う片岡さんの詩には死者への祈りが多い。死者への祈りもまた生活の一部であることを知っている詩人だ。

 それにしても詩編の題名となった「影おくり」「彼岸念仏」「灯夜」「お焚き上げ」とは、何と寂しい習慣だろう。暮れなずんでいる薄明かりのような、しみじみとした懐かしさがひそんでいる。静寂な彼の視線はそこから決して外れることがない。

 そして、その薄明かりが、現代もなお、日本人の魂の奥底を揺り動かしていることに、本詩集から改めて気付かされる。

 千葉県詩人クラブ理事の根本明さんは帯文で「風土の深い闇に光を見出し、明日への祈りに耳を傾けるのだ」と書いている。

 片岡さんは1953年生まれ。詩集『陽炎』『夷隅川』、写真作品集『房総丘陵』『残像』がある。文芸誌「覇気」同人。日本現代詩人会会員、千葉県詩人クラブ理事。(中谷順子・詩人)(砂子屋書房・2625円)