がん治療に「マルチイオン」 世界初、部位で切り替え効果 26年度運用へ臨床試験 量研機構

量子科学技術研究開発機構が開発したマルチイオン源装置=千葉市稲毛区
量子科学技術研究開発機構が開発したマルチイオン源装置=千葉市稲毛区
量子研が目指す重粒子線がん治療装置のイメージ。左側にあるのがマルチイオン源(量子科学技術研究開発機構提供)
量子研が目指す重粒子線がん治療装置のイメージ。左側にあるのがマルチイオン源(量子科学技術研究開発機構提供)

 量子科学技術研究開発機構(千葉市稲毛区)は、がんを手術で切除せずに、放射線で治療する「重粒子線がん治療」をより高度にするため「マルチイオン源装置」を世界で初めて開発したと発表した。がんの部位やステージによって使用するイオンを変えて治療効果を高めることができるほか、周囲の臓器への影響や副作用も最小限にできるとしている。同機構は今後、運営するQST病院で臨床試験を始め、効果を検証する。

 重粒子線治療は、放射線治療の一つ。通常の放射線治療で用いられるX線に比べて、がんを死滅させる能力の高い炭素イオンを照射する。放射線治療よりも照射回数や副作用が少なく、肺がんは最短1日で治療を終えられるという。

 一方、重粒子線治療装置は縦120メートル、横65メートルと大型。導入するには新たに装置用の建物を建設する必要があり、治療を行っているのは、同病院など国内7カ所の大規模病院にとどまっている。

 重粒子線治療を受ける患者は年々増加しているものの、年間100万人いる新規のがん患者のうち約0・4%しか重粒子線治療を受けられていないのが現状だ。また、がんの種類によっては除去が完璧でなく、治療効果を高めることと、中核病院でも設置できるよう装置を小型化することが課題だった。

 同機構は、機械メーカーの住友重機械工業(東京都品川区)と連携し、マルチイオン源装置を開発。同装置は、さまざまなイオンを高速で切り替えることが可能で、腫瘍の中心部には炭素より除去能力が高い酸素イオンなどを、腫瘍と他の臓器の境界には炭素より除去能力の低いヘリウムイオンなどを照射できる。周辺臓器に与える影響をできるだけ低減させながら、治療効果を高めることが期待されている。

 同装置は、同機構が1994年に世界で初めて開発した重粒子線治療装置に組み込み、2026年度からの本格運用を目指して、早期に臨床試験を始める方針。今後は重粒子線治療装置の小型化に向けた技術開発も行い、現在よりも約6分の1程度に小型化した装置を中核病院に普及させたい考え。

 同機構の平野俊夫理事長は完成発表会で「重粒子線治療は深部のがんも切らずに短期間で治療ができ、体にも優しい。マルチイオン源の開発は治療のために割く時間が減り有意義な人生を実現する切り札になる」と期待した。


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