跡地に店舗、戻る日常 空き地点在、離れた住民も 市原・ゴルフ練習場鉄柱倒壊 【房総半島台風2年】(下)

台風の強風で倒壊したゴルフ練習場の支柱とネット=2019年9月15日、市原市内
台風の強風で倒壊したゴルフ練習場の支柱とネット=2019年9月15日、市原市内
ドラッグストアなどが建設工事中のゴルフ練習場跡地=4日午後、市原市
ドラッグストアなどが建設工事中のゴルフ練習場跡地=4日午後、市原市

 房総半島台風(台風15号)の猛烈な暴風が吹き荒れたあの日、市原市でゴルフ練習場の鉄柱がなぎ倒され、住宅街に直撃した。「まるで映画の舞台セット」のような非日常の光景が広がった被災地は今、ドラッグストアの建設が進み、新たな住宅分譲も計画されている。「ようやく生活が元に戻った」「地域の活性化に期待している」。日常が戻りつつある街。その傍らで、住民が離れ草が生い茂る空き地が災害の爪痕のように点在している。

(報道部・中瀬健太)

 JR五井駅から北に約1・5キロ。2019年9月9日未明、同市五井の「市原ゴルフガーデン」の鉄柱13本が暴風で倒壊し、住宅21軒が被災した。

 直撃した14軒が全壊や半壊。市によると、自宅に住めなくなった14世帯がアパートやマンションなどで避難生活を余儀なくされた。今月6日時点で11世帯が避難先を退去したが、3世帯は今も仮住まいで生活している。

◆「人が戻ってきた」

 事故当時と1年後の写真を手に、住宅街を歩いた。昨年は被災住宅を解体した後の空き地が目立っていた場所に、再建を終えた真新しい住宅が立ち並ぶ。建設途中の家もある。

 「人が戻ってきてうれしい。新しい建物もでき始めて先行きは明るい」。こう話すのは、自宅の屋根や壁が壊れた松山高宏さん(57)。台風15号の後も翌月の東日本台風(台風19号)などで大雨が続き、雨漏りに対応するため避難した家族とは別に1人自宅に残った。

 被災後、自宅周辺に人けは全くなくなった。「まるで映画の舞台セットに入り込んだような非日常感。夜は真っ暗でゴーストタウンみたいで不気味だった」

 そんな住宅街に住民が戻ってきたのは昨年末から今年7月ごろにかけて。一時はSNSなどで「加害者」のゴルフ練習場と「被害者」の住民という見方をされ一つの地域が分断されたが、昨年12月には双方で和解が成立し、災害ADR(裁判外紛争解決手続き)は終了した。

 松山さんは「空き地の状態が長く続き、もう戻ってこないかと思っていた近所の宅地でも工事が始まった。良かった」と笑顔を見せる。

◆慣れ親しんだ場所

 仮住まいの市内のマンションから昨年12月、約1年3カ月ぶりに帰ってきた60代男性は「年末年始を慣れ親しんだ場所で過ごし、ようやく生活が元に戻ったと実感した」と振り返る。

 子どもや孫らと5人で暮らしていた男性の自宅は、鉄柱が直撃し真っ二つに。幸い、部屋の間の通路に倒れたため家族は九死に一生を得た。約2週間は避難所になった公民館に身を寄せ、自宅再建の間に暮らす場所を探した。

 仮住まいは、5人家族には手狭なマンションで、必要最小限の生活用具のみそろえた。孫の学区とは別の地域だったが、車で学校に送迎することで転校せずに済ませた。自宅は被災したとは言え、20年以上家族と暮らした思い入れのある土地。「必ず戻る」という強い思いが、不便な仮住まい生活の支えになった。

 ゴルフ練習場の跡地にはドラッグストアの他、美容室やコインランドリーが開業予定という。将来的には新たな住宅分譲も始まる。男性は「新しい人が流入したら、またここも元気になるのでは」と地区の活性化に期待した。

◆草生い茂る住宅跡

 日常が戻る一方で、この土地から離れることを決めた住民もいる。草が生い茂った住宅跡の空き地では、どんな家族がどんな生活を送っていたのだろうか。そして、どんな思いで決断したのだろうか。

 松山さんは「空き地が4軒分あるが、数軒は帰ってこないだろう。うちは被害が少なかったから今も住めているが、被害状況によっては転居を考えたかもしれない」と、去っていく住民の心情をおもんぱかる。

 再起に向かう地区に残された空き地は被災するということの現実を突き付けてくる。「死者が出なくて本当に良かった」と住民の一人は絞り出した。直後の惨状を思えば、まさに真情だろうと感じた。


  • LINEで送る