ゆがんだ親子関係 心配つけこんだ次男 重ねたうそを母盲信 松戸のJA着服 【法廷から 記者が見た人生模様】

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 母親は金を無心する子の言葉を盲信し、息子は心配する親心につけ込んだ。法廷で見えたのは親子のゆがんだ関係だった。母親が勤務先の松戸市内のJA支店から現金約9千万円を盗み、次男に全額を渡した事件。地裁松戸支部(幅田勝行裁判官)は、母子それぞれに実刑判決を言い渡した。「息子を信じていた。うそをつくはずないと、ばかな考えにとらわれていた」。母親の松永かおり被告(54)は、証言台の前で弱々しい声で動機を述べ、うなだれた。

◆これで最後

 「大学卒業のために論文の特殊な印刷代が必要」「就職先で開発費を出すことになった」。次男の西弘樹被告(23)は、金が必要な理由を母親にこう話していた。

 JA支店で実質的に1人で出納業務を担当していた母親は、金を求められるたびに出納機などから現金を抜き取った。盗んだ金は1回当たり数百万円。紙幣があるように見せかけるため、紙の束が入った封筒を金庫に入れ、発覚を免れる細工もした。

 しかし、次男の言葉はすべてうそだった。母親から受け取った金でキャバクラで豪遊し、旅行を繰り返した。浪費しただけだった。単位不足で大学を除籍され、就職もしていなかった。

 「大丈夫。これで最後だから。働いて返すよ」。金を受け取るたび、「これで最後」を繰り返した。着服を続けた母親は「お金を渡すのをやめたら、これまでの分が無駄になる」との一心だったという。

 母親は誰にも相談できなかった。夫から言われた「兄は俺がしつけをして大学を卒業させた。弘樹はお前が卒業させろよ」との言葉が重くのしかかっていたという。子育ての責任を感じ「とにかく(次男を)卒業させる」と一人で背負い込んだ。

 夫婦は事件発覚後に離婚。証人として出廷した元夫は「大学のことを託したのが妻にはプレッシャーになったと思う」。涙ながらに語った。

◆収入分からない

 「最後まで信じてくれたのに裏切ってごめんなさい」。次男は、母親に着服させたことを悔い、謝罪した。一方で、反省しているのか疑問を感じる場面もあった。「違法薬物を吸った人物といるところを撮られ、脅されて金が必要だった」。母親から受け取った現金の多くを脅された男に渡したと弁明した。幅田裁判官は判決で「にわかに信用できない」と一蹴。当然だと感じた。

 また、事の重大さを理解していないようにも映った。母親に大金を盗ませ湯水のように使ったが、両親の収入は把握していなかった。幅田裁判官は「労働者の平均年収は数百万円だ」と諭したが、「分からない」と答えるだけだった。

 地裁松戸支部は3月20日、窃盗罪に問われた母親に懲役3年、組織犯罪処罰法違反の罪に問われた次男に懲役2年、罰金80万円、追徴金1400万円の判決を言い渡した。判決によると、母親はJA支店から約9600万円を盗み、次男は盗んだ金と知りながら全額を受け取った。幅田裁判官は2017年から約1年間、着服を繰り返したと認定した。母子ともに控訴せず、判決が確定した。

 法廷で浮き彫りになった次男の行為は、子どもの身を案じた親心を踏みにじるものだった。1億円近い大金を浪費した動機が明らかになったとは思えない。なぜ、不正に手を染めるまでに至った母親の気持ちを想像できなかったのだろうか。「親不孝」の言葉では片付けられない憤りが募った。

(社会部・渡邊翔太)