

終戦から79年。二度と戦争を繰り返さないようにと戦争体験が語り継がれる一方で、長く埋もれてきた問題があった。元日本兵の心的外傷後ストレス障害(PTSD)。心に傷を負い、帰還後もPTSDに苦しむ元兵士たち。家族に暴力を振るうといったことも起こり、戦争が残した爪痕は深い。残酷な戦場での体験がもたらした苦しみは世代を超えて続いている。
(報道部・大村慧)
戦争で生じたトラウマの影響でPTSDを発症し、戦後、アルコール依存になったり悪夢を見たり、家族へ暴力を振るうようになった元日本兵士たちがいた。
米国でベトナム戦争(1975年終結)の帰還兵のPTSDが社会問題になり、日本では95年の阪神淡路大震災をきっかけにPTSDが知られるようになった。一方で、元日本兵のPTSDの問題は長く表面化しなかった。
「ベトナム戦争の帰還兵のPTSD問題は知っていたが、それが父とつながらなかった」。77年に亡くなった父(享年58歳)が中国で従軍したという鈴木一正さん(74)=松戸市=はそう振り返る。昨年、元日本兵のPTSD問題を知り、自分の父もそうだったのではないかと気付いた。
日本へ帰ってきた後、酒飲みになっていった父。「今思えば、戦争で負った傷を癒やしていたのではないか」。父の胸と背中には銃弾が貫通した跡があった。傷跡は体だけでなく、心にも残っていた。
父はある日、戦場で屋根の上にいたゲリラ兵を銃で撃った。ゲリラ兵が屋根から落ちると、その母親らしき女性が飛び出してきて遺体に泣きすがったと ・・・
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