御木平輔のミュージカルランド

■プロフィール
 御木平輔(みき・へいすけ) 音楽専門誌「ミュージックフォーラム」編集代表。主な著書は『ミュージカル手帳』(心交社)、「宝塚歌劇名作・傑作全演目事典平成編(講談社)、「新ミュージカル手帳」(心交社)、「ひばり模様」(七賢出版)など多数。南房総市千倉町のかやぶき屋根の家に住んでいる。


ドラマに重心置いた横浜公演 オペラ座の怪人(劇団四季) 【御木平輔のミュージカルランド】

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観劇した4月4日のタイトルロールのオペラ座の怪人(佐野正幸)と歌姫クリスティーヌ(山本紗衣)は絶品!

 パリ、オペラ座の地底湖に無数の蝋燭(ろうそく)の灯が揺れる中、歌姫クリスティーヌを乗せた小船が怪人の隠れ家へと進んでゆく。着くと怪人は歌姫に強引に求婚する。そこに歌姫の想い人ラウル子爵が現われるが、待っていたとばかりに怪人はラウルの首に縄を掛ける。絶体絶命。怪人は歌姫に「結婚をOKするならラウルを助けるが拒否すれば…」と迫る。「醜いのは顔ではなく魂」と呟く歌姫は想い人の目の前で怪人にキスをする。驚く怪人は愛の深さと掛け値なしの優しさに触れ、二人を解き放つ。そして仮面を残して姿をくらますのだった…。

 この大詰めの息詰まる愛のトライアングルに観客の心がぎゅっとわしづかみにされ、やがて感動の嵐に包まれる。これが名作の醍醐味(だいごみ)だ。ドラマチックな原作(ガストン・ルルー)、甘美で陶酔感あふれる音楽(アンドリュー・ロイド=ウェバー)、豪華絢爛(けんらん)な装置と衣装、繊細な仮面をデザインした美術(マリア・ビョルンソン)の三位一体が、螺旋(らせん)状にドラマを紡ぎあげてゆく。

 正直、ドラマの種まきである一幕は予定調和的で歯がゆかったが、二幕目にドラマが芽吹き、結実のラストには至福の時を迎えることができた。確かに客席の頭上近くまで落下するはずのシャンデリアが横浜公演では舞台内で収まったりしてスリル感には乏しいが、それを差し引いても収穫の舞台だった。それはオーケストラと役者が見事なほどに息が合ったことだ。特に怪人とオケとの阿吽(あうん)の呼吸は今までに味わったことがない。

 それとクリスティーヌがコーラスガールから抜てきされプリマ・ドンナの代役として『スィンク・オブ・ミー』(忘れないで)を歌うシーンに説得力があった。今までは結構堂々と歌っていたのだが、今演では緊張感のあまり声が震えてしまう初々しさを見せていて、ドラマを深くしていた。歌姫の繊細な心情が手に取るようだった。ダンス教師の早水小夜子の存在感、ラウルの神永東吾の爽やかさは特筆。

 最後に日本初演のあの感動が蘇(よみがえ)った。怪人は市村正親、歌姫は野村玲子、ラウルは山口祐一郎、ロンドン初演から2年後の1988年4月のことだった。

 【メモ】8月13日まで横浜のKAAT神奈川芸術劇場で上演中。問い合わせは劇団四季予約センター、電話0120(489)444。



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