本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「折り合う」 「赤毛のアン」

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 小さな貝がらをひとつしょって、白い子猫がやって来た。友人が拾った雄猫で、事情があっていくつかの家を転々とした後、我が家に落ちつくことになった。貝がらは、しばらく預かってくれた家の男の子が友人に手渡してくれたものだ。

 「この貝で遊ぶのが好きだったんだよ」。その言葉だけで、子猫がかわいがられていたことがよくわかる。

 「猫って身ひとつでもらわれて行くのが普通だけど、この子はこんな素敵なおもちゃを持って来たのね」

 友人のてのひらで、小さな貝がぽつんと光った。細くしなやかな体をした猫と、白い貝がらとの組み合わせは、あまりにも詩的でどことなく寂しくもあった。浮世離れした性格の子猫は、透き通った空の色の瞳をしている。

 我が家には猫が三匹いるから、これ以上飼うのは無理だと思っていた。だが、電車の座席を詰めあうように、猫も人も少しずつ折り合って隙間を作ったら一匹分の居場所が作れるかもしれない、と考えた末の結論だった。その思いに至ったのには理由がある。次々と猫や犬を拾い里親探しに奔走する友人の姿と、里親会に来ている動物たちの心細い瞳を見てしまったからだ。

 人は他の生き物の住処を端から奪っているのだから、せめて、折り合いのつく範囲で彼らの居場所を確保できたらと思う。人だけが居心地良くても、まわりの生き物が生き辛かったら、本当の幸福とは呼べないのではないか。草や木や小さな生き物が隅々まで幸せを感じる時、人も初めて幸福になれるのではないか。この頃、そんなことを考えるようになった。

 新入りの猫は四カ月を過ぎていて、先住猫たちの母性本能をくすぐる月齢を越えてしまったのだろう。穏やかに受け入れてもらえるかと思いきや、近づくたびにフーッと牽制攻撃を受けている。しばらく隔離して様子を見ることにした。

 貝がらを脇に置いてぽつんと眠る子猫。時折、切なそうに鳴く。体を寄せ合う仲間が欲しいのだろう。抱き上げると、ごろごろと喉を鳴らす。その姿を見ていたら、古ぼけたトランクひとつを持って、孤児院からグリン・ゲイブルスにやってきた赤毛の女の子の物語が思い出された。

 彼女の名前は、アン。不幸な境遇にも関わらず、アンは空想の力で自分を支えてきた。赤毛でそばかすだらけのおしゃまな女の子は、シリーズが進むにつれ、思慮深い魅力的な女性に成長していく。

 物語以上に面白いのが、モンゴメリの人間観察だ。彼女が書きたかったのはアンではなく、実は癖のある脇役の方だったのかもしれない。アンにはあまり現実味が感じられないのに、彼女を取り巻く人々は、どこかその辺に実際にいそうなほどリアルである。アンの育ての親であるマリラやマシュウ、隣に住むハリソン氏、隠者のように暮らすミス・ラベンダーなど。孤独で偏屈な人が、アンとの出会いによって変わっていく様は、閉鎖した扉が次々と開け放たれて風が通って行くようだ。...

 【メモ】「赤毛のアン」モンゴメリ作・村岡花子訳・新潮社

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【残り 1303文字】