本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「密やかに」 『御所の花』

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 友人から手渡された一冊の画集。本を開くと、安野光雅さんが描いた御所の草花が可憐な姿で目に飛び込んできた。

 淡い色の水彩画だ。背景の色の中に、空気の湿り気と温みがある。どの色も湿気のある日本の風土の色。赤、青……という明確な色の名では表しきれない、幾重にも薄い光の衣をまとった繊細な色。その場所の土の匂いや感触まで、はっきりと伝えてくれる絵だった。

 原画を見てきた友人の感嘆の言葉を思い出しながら、ページを繰った。早春に始まり、季節を追うごとに空気の層が変わっていくのが感じられた。光と空気が変わっても、どの頁でも変わらない花の姿があった。静謐な佇まい。しかも凛として気高い。

 春夏秋冬の草花を一巡り眺め、もう一度、前書きの安野さんの文に目を落とした。「……わたしは、はからずも、御所の花を絵に描く機会に恵まれました。そこには、わたしが忘れていた昔の野山が、現れたようにおもえました。しかし、わたしのいう野山は、今は昔話となって、人間の手によってかなり変わってしまいました。昔の野山を、そのままに残すのは、本当は大変な陰の努力が必要なことだとわかりました。それは、人間が自然に与えてしまった影響を償おうとすることのように思えてきます。わたしは御所の花を描いて、あらためて花の美しさに目をひらかれました。きのうまでは自然にたいする畏敬と償いまでは、おもい至らなかったからです」。

 「自然に対する畏敬と償い」。その言葉が深く胸に沁みた。昔の野山を、一番恋しく思っているのは他ならぬ花たちであり、人がそれを壊したことに思いが至る。畏敬と償いの目で眺められ描かれた花は、安野さんの理想の形をとって現われ、再び私たちの心を揺さぶる。それは、本当に慎ましく優しい。華やかな印象が強い薔薇や百合でさえも、そっと密やかに描かれていた。

 花は人間を楽しませてくれる為に咲くわけではないけれど、私たちは花に心を慰められる。「花は無心」。だからこそ、私たちは花に心を託すことができる。

 目次の花名を書き写し、薬草図鑑で調べてみた。ほぼ全ての草花が、薬用や食用、染料などの効能を持っていた。アカバナマンサク=止血、湿疹。ネコヤナギ=解熱、鎮痛。フキノトウ=咳、痰……という具合に。もちろん花は、人間を治そうとして咲いているわけではないけれど。......

 【メモ】「御所の花」安野光雅・朝日新聞社(御所の花展図録)

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