本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「はるかな場所」 『海辺の王国』

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 息子が小学校四年生の時だった。通っていたアメリカの小学校で、歴史物語を書く宿題が出た。「時代設定はいつでもいいんだって」。歴史好きの息子はせっせと書いていた。仕上がった作品を、夜、読ませてもらった。第二次世界大戦の日本が舞台。B29の空爆を受けて死んでゆく男の子の話だった。戦闘機の絵が表紙に描いてある。

 「どうしよう」と内心あせりを覚えた。この宿題を提出したら、アメリカ人の先生はどんな反応を示すだろうか。先生が目を通すより先に、クラスで発表するのかもしれない。クラスメイトの反応も気がかりだった。

 だが、創作であっても、書かれている内容は真実だ。「書き直したら?」とは言えなかった。当時は湾岸戦争のさなか。アメリカの街にはいたるところに黄色いリボンがひらめいていた。子供たちも兵士に激励の手紙を書いていた。戦争を題材に物語を書いた息子の心の動きも納得できる。宿題の文章には、戦争の悲劇は書かれていても、批難や悪意は感じられなかった。余計な事を言うのはやめにした。翌日、学校から戻った息子に、さりげなく先生の感想を聞いてみた。

 「ミセス・バンキーはね『戦争の時は日本人も大変だったんだね』って言ってたよ」。息子の顔は明るかった。

 先生の思いやりにほっとしながら「日本こそが大変だったのに!」という感情も、私の中にはあった。勝ち負けに関係なく、双方に被害者意識だけを残すのが戦争だと、気づかされた出来事だった。

 「喧嘩両成敗」と言うが如く、人の足を踏みつけながら、人に踏まれた足の痛みだけを訴えてはいけない。自分こそが正義だと言い張る限り、争い事は決して無くならないだろう。

 ロバート・ウェストールの『海辺の王国』は、第二次世界大戦中のイギリスを舞台に、主人公の少年ハリーの成長を描く。ハリーは、ドイツの空爆を避けて防空壕に逃げ込んだ。後から来るはずの両親と妹を待つが、待てど暮らせど来ない。しばらくして外に出ると、家は瓦礫の山と化していた。ハリーはひとりぼっちで街から逃げ出す。途中で飼い主を亡くした犬のドンに出会い、ひとりと一匹は、海辺に沿って旅を続ける。空爆の被害に遭った人と遭わなかった人は、光と影ほどに暮らしぶりが違ってしまっていた。......

 【メモ】「海辺の王国」ウェストール・徳間書店」

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