小説家としての非凡な才能 夢子(上)(吉成庸子著)

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 吉成庸子さんと言えば、千葉の経済界、政界で知らない人はいないと言っても過言ではない。現在は、吉成儀京葉銀行相談役夫人だが、若い頃は、二十歳そこそこで東京・日本橋の料亭の若女将をやり、西銀座でクラブを経営するなど、商売一筋に打ち込んできた異色の経歴の持ち主だ。その吉成庸子さんが8冊目の著書、小説「夢子」(上巻・四六判、390頁)を出版した。

 これまでにも短編小説集「花を焼く」や、長編小説「絹の手ざわり」などを出版し、小説家としても非凡な才能を発揮している吉成さんだが、今回出版された「夢子」は、現在、県内の月刊誌「房総及房総人」で連載中の小説で、その一部を上巻として発刊したものだ。

 夢子は、戦後日本の経済復興の中で、富裕な家庭に生まれ、何不自由なく自由奔放に育っていく。養育係として、常に夢子を見守るお手伝いのトラの愛情に包まれていた。だが、成長し、父親の経営する貿易会社の後を継ぐため、見合い結婚で婿を迎えたことから、次第に夢子に暗い影が忍び寄る…。

 著者は、あとがきの中で「夢子」は、マーガレット・ミッチェルの時代長編小説「風と共に去りぬ」をイメージし、スカーレット・オハラに夢子を、ずっとスカーレットのそばにいる黒人のお手伝いさん、マミーにトラをだぶらせ、物語を紡(つむ)いでいる。もちろんスカーレットと夢子は、性格も行動もまったく異なっているが、主人公にふさわしく強い女として描かれていく。

 今回発刊された「夢子」は上巻だが、このあとさらに中、下巻と続き、最終的にはこれまでにない大作になる予定のようだ。早くも次の作品に期待が集まる。

 また、今回の「夢子」には、吉成さんが得意とするエッセイ3編も含まれている。中でも「私の桜上水」は、著者が幼少時代の体験を思い起こしつつ、子ども心に刻まれた辛い思い出が綴られ、戦後の混乱期の世相とともに、同世代の読者の心を打つ作品に仕上がっている。(千葉日報社刊・1500円)