【千葉魂】大村コーチ、2軍落ち平沢にげき 苦悩の教え子へ「チャンスだ」

6月14日に2軍落ちした平沢。現在は2軍で汗を流す日々を送る
6月14日に2軍落ちした平沢。現在は2軍で汗を流す日々を送る

 チャンスをつかむことはできなかった。平沢大河内野手が13日のベイスターズ戦(ZOZOマリンスタジアム)の試合後に2軍落ちを通告された。正遊撃手の藤岡裕大内野手が5月21日のバファローズ戦(京セラD)にて右足の肉離れで戦線離脱。巡ってきた絶好機も結果は伴わず、藤岡の復帰と共に抹消となった。肩を落とし帰路につく若者に声をかけたのは大村巌打撃コーチだった。

 「次に1軍に呼ばれた時にはすぐに結果を出せるように、揺るぎない自分のいいものをつくってこい」

 大村コーチは平沢がプロ1年目の時の2軍打撃コーチ。仙台育英高校から競合の末、ドラフト1位で入団をしてきた若者の輝きを誰よりも知っている人物だ。ルーキーイヤーのファーム1号はイーグルスのレイ投手から。そして2本目が同じくイーグルスのミコライオ投手。2本目を打つ前に「プロ1号おめでとう。次は150キロの速球を打ってみろ」と課題を出したところ、見事に剛速球を打ってのけた。

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 今も忘れられないプロ1年目の5号本塁打は6月24日、ロッテ浦和球場で行われたイースタンリーグ・ライオンズ戦。衝撃の一発だった。平沢が放った打球は、グングンと伸び、ライトスタンド後ろに備え付けられているフェンスを飛び越えた。文字通りの場外弾。マリーンズ打線が、三回1死まで完璧に抑え込まれていたライオンズ先発の岡本洋のインコースストレートをフルスイングした打球は、約25メートルの防球ネットのはるか上を越えていった。球場奥の道路を挟み隣接するマンション敷地内からホームランボールが見つかった事から、推定飛距離は150メートル。底知れぬ可能性を感じさせる一打だった。

 「彼は天才だよ。柔軟性もあってムチのようなしなやかな体を持っている。こんな小さな体でこんなに飛ばすのかと思ったね」

 当時の衝撃を大村打撃コーチはそのように振り返る。それだけに肉体改造を行い、一回り以上、体が大きくなった現在の打撃にもったいなさを感じる。だから問いかけた。

 「たくましくなった。1年目の方がはるかに細かった。ただ一方であの頃の方が、打球が飛んでいる。それはなぜか。それを考えて取り組んでほしいと思う」

 打ちたいと思うあまり大振りになったスイング。1年目はシンプルにあれやこれや考えず体を効率的に使った打撃を行っていた。「あの頃の大河(平沢)のスイングは、よどみがなかったよね」。そう論した。

 そして2軍落ちする前に平沢に今一度、確認をしたいことがあった。だから別れ際、問いかけた。「オマエは1軍のレギュラーを目指しているのか? それとも1軍に入れたらいいのか?」。落ち込んでいた若者の目が光を帯びた。「もちろん1軍のレギュラーを目指しています!」。すぐにキッパリと答えた。その一言を聞き終えた大村打撃コーチは「それなら、ファームでしっかりとやってこい」と送り出した。

 「その気持ちだけは確認をしておきたかった。その気持ちがあるなら大丈夫。いつもその気持ちは忘れないでほしい」

 競争に敗れ2軍へと去っていく若者の背中に大村打撃コーチは語りかけた。もう一つ、激励を込めて伝えた言葉がある。今、このような状況で、どのような言葉をかけるべきか考え選んだメッセージだった。

 「これは平沢大河という野球選手をつくり上げる大きなチャンスだ。目標、目的を明確に持って日々、取り組んでくれ」

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 すでに背番号「13」は2軍で再出発をしている。人は成功体験からではなく失敗や悔しい想(おも)いを糧に成長する。なにくそと思う気持ちこそがエネルギーとなり、前へと歩を進めさせる。後にたどってきた道をふと振り返る時、その事実に気が付く。今年、現役を引退したイチロー外野手も日米通算4千安打の偉業を達成した際に「4千のヒットを打つには8千回以上は悔しい想いをしている。自分は常に悔しさと向き合ってきた」と語っている。大村打撃コーチはだからこそ「これはチャンスだ」と伝えた。1軍のグラウンドで再会する日。平沢が悔しさを糧にどのような成長した姿を見せてくれるのかを誰よりも楽しみにしている。

(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)



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