美しい五輪ライバル物語 小平、羽生、平野も主役に 

 五輪の魅力は高度な技の応酬や、メダルを争う劇的な展開だけではない。国境を超えた友情や、これぞスポーツマンシップという真摯(しんし)な姿が、見る者の心に響く。平昌五輪でも感動的な光景が繰り広げられている。日本のメダリストたちもそんなシーンの主役になった。

 ▽心通う日韓の旗

 18日のスピードスケート女子500メートル。金メダルの小平奈緒と、銀に終わった李相花(韓国)のライバル物語は美しいエンディングを迎えた。

 五輪3連覇を逃して涙にくれる地元のヒロイン李を、小平が抱きかかえる。その後の記者会見などによると、小平が「重圧の中、よく頑張ったわね。今でも(あなたを)リスペクトしている」とねぎらい、李が「あなたを誇りに思う」と祝福したという。

 国際舞台で長年、戦い続けてきた2人は宿敵として互いを高め合ってきた。李が五輪連覇などで絶頂にいた時、小平は伸び悩んでいた。李が故障で苦しんだ昨季から今季にかけては、遅咲きの小平が急成長。その間も、静かに友情を育んできたエピソードも明かされた。

 たった一つの頂点を目指し、声を掛け合うこともためらわれる時期もあった。すべてが終わって、友を気遣う素直な気持ちがよみがえったのだろう。

 李の手には韓国国旗の太極旗。小平は日の丸をまとっていた。なにかと複雑な関係にある日本と韓国。これほど心を通じ合わせて寄り添った両国の旗は、これまで見たことがなかった。

 ▽「ブロマンス」の絆

 羽生結弦が連覇を果たした17日のフィギュアスケート男子でも友情物語がクローズアップされた。金の羽生と、銅メダルを獲得したハビエル・フェルナンデス(スペイン)が競技を終えたリンクサイドで抱擁している。号泣する23歳の羽生を、26歳のフェルナンデスがいたわるように抱きかかえていた。

 2人はカナダに練習拠点を置き、ともに名コーチのブライアン・オーサー氏の指導を受ける同門だ。かつてメディアのインタビューで羽生が「ハビ(フェルナンデス)と一緒に表彰台に上がりたい」と言うと、フェルナンデスは「僕が上がれなくても、羽生が上がれば僕はうれしい」と答えたという。

 平昌で羽生の夢がかなった。メダルの色が決まった後、フェルナンデスが羽生に対し「これが僕の最後の五輪になるかもしれない。2人で表彰台に立ててよかったよ」と言うと、羽生の涙は止まらなくなった。

 こんな2人の関係は、欧米のメディアでも「ブロマンスの絆」として紹介された。「ブロマンス(bromance)」とは「ブラザー(brother=兄弟)」と「ロマンス(romance)」を合わせた造語。「兄弟愛」といった意味合いだろうか。

 フェルナンデスはメディアに「ぼくたちは友人であり、チームの同僚であり、そしてライバルだ。氷の上では競い合うけど、リンクを離れれば友だちに戻り、また一緒に練習する」と説明している。

 熱狂的な羽生ファンの間からも「ハビゆづ」の絆は、大きな共感を得ているようだ。

 ▽格好いい敗者

 14日行われたスノーボード男子ハーフパイプ決勝での平野歩夢とショーン・ホワイト(米国)の激闘の結末も、すがすがしかった。勝者も敗者も相手に敬意を払う。アスリートの基本姿勢だが、わだかまりなく態度で示すのはなかなか難しい。格好よさを追求するスノーボーダーは、この点でもクールだった。

 2回目。平野は軸をずらして縦に2回転、横に4回転する「ダブルコーク1440(DC14)」の連続技を決めて高得点をマークし首位に立った。

 追うホワイトは3回目に平野と同様の技に挑戦し成功。わずかに平野の得点を上回って逆転の金メダルをつかんだ。この採点を巡っては「完璧さにおいて平野の方が上」「手でボードをつかむグラブでも平野の方が長かった」との声が上がるほどの接戦だった。

 それでも平野は取り乱さなかった。最終滑走者のホワイトの演技を見て「負けたと思った」と冷静に語り、ホワイトに祝福のハグ。このスポーツが、ジャッジの主観が入る採点競技であることを知り尽くしているからだろう。「見苦しい態度はスノーボーダーに似合わない」ということなのか、淡々としたスタイルを貫いた。

 ホワイトも平野をたたえた。「彼を本当に尊敬している。彼がいたから、自分も(同じ技を)挑戦できた」。31歳の王者は、19歳の平野に対し「4年後の北京でも彼の驚異的な滑りを見たい」と期待をかけた。(共同通信=荻田則夫)


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