【五輪コラム】「ビンドゥンドゥン」はお役人?(2) 愛くるしく不思議なパンダが公式マスコット

北京市内のMMCにて。MMCの中央玄関を入ると、大きなビンドゥンドゥン(右隣はパラリンピックの公式マスコット、雪容融)がお出迎えしてくれる=2月5日

 同じ漢字文化圏とあって、中国語が全く分からなくても漢字で何となく意味が読み取れることがある。「主媒体中心」。なるほど、これは五輪取材をする記者が拠点とするメインメディアセンター。「混合区」は、試合後に選手へ取材するエリアとなるミックスゾーンのことである。

 では逆に日本語はどこまで読み取れるのだろうか? 開会式に先立って競技が始まったカーリング会場で、ボランティアの方々にホワイトボードを使って尋ねてみた。私がまず書いたのは「不思議」。中国語っぽく熟語を書こうとして、浮かんだのがなぜかこれ。異国の地、さらに外部との接触を遮断された「バブル」の生活を送り、日々何かと浮かんでいた感情だったからかもしれない。これは中国語で「不可思議」となるが、意味はほぼ変わらないそうですぐ伝わった。

 次は「火鍋」。閉ざされた生活では自由な食事もままならないため、ストレスでつい浮かんだ言葉だ。これも中国でもほぼその通り。同じくバブルで過ごすボランティアの方は食事をどうしているのか。「専用の食堂やお弁当がある。おいしいよ。火鍋ほどじゃないけど」と答えてくれた。

 私がほかに漢字で分かるのは公式大会マスコットの「ビンドゥンドゥン」。ビンは「氷」で、ドゥンは「土ヘンに敦」と書く。中国の代表的な動物であるパンダをモチーフとし、国内外、5800点以上の応募作品の中から選ばれた。2008年夏季五輪のマスコットの一つにも起用されたパンダ。中国の「国獣」とされるパンダは現地で何かとキャラクターに起用されることが多いため、今回も「ありがち」「安直すぎる」といった声があったようだ。

 マスコットの公式紹介動画を見ると、ずんぐりむっくり、丸々とかわいらしい見た目とは打って変わり、宇宙飛行士のスーツを模した「氷のシェル」によって存外な力を発揮。俊敏な動きでさまざまな競技を楽しむ様子を披露している。そのギャップに私もすっかり心を奪われた。

 実際に中国でどれほど人気なのかは定かでないが、世界中から集まった記者や現地スタッフがビンドゥンドゥンの描かれたピンバッジやシールなどのグッズを集めている姿を目にする。競技会場では試合の合間に登場し、入場者に向かって手を振り、会場を盛り上げようとしている。「ビンドゥンドゥンはお役人さんね。いろんなところにいて、きっちり大会の顔を務める仕事をしなきゃいけないもの」とはアイスホッケー会場にいた若い組織委員会スタッフの話だ。

 ビンドゥンドゥンは北京から南へ約2千キロ離れた広州の美術学院の先生、生徒らによるチームが生み出した。「私、ビンドゥンドゥンを作った学生と同じ大学なの」と言うのは、フィギュアスケート会場で出会ったボランティアの学生。「(公式マスコット決定後に)正式発表までしばらく黙っていないといけなくて、それが大変だったみたい」と声をひそめて明かしてくれた。

 彼女は加えて「ビンドゥンドゥンは雪から生まれたキャラクターという設定だけど、それを生んだ広州は雪が降らないのよね」。これはまたなんとも「不可思議」な気持ちにさせられた。(共同通信・門馬佐和子)


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