「五輪コラム」見せた男の意地 レスリング66キロ級で金メダル 

男子フリー66キロ級で優勝し、コーチに担がれガッツポーズする米満達弘=エクセル(共同)

 優勝が決まると日の丸を手に、マットの上を駆け回った。米満達弘、26歳で初出場。男子レスリング界にソウル以来、6大会ぶりの金メダルをもたらした。伊調馨、吉田沙保里が3連覇を決め、小原日登美も初優勝。レスリングと言えば女子と言われても仕方がないほど、影の薄かった男子の意地を見せつけた格好だ。

 ▽夢みたい

 もともと日本の男子レスリングは輝かしい歴史を誇ってきた。1952年ヘルシンキ大会の石井庄八をパイオニアとして60年ローマを除き、数多くの金メダリストを輩出。その流れがソウルでの小林孝至、佐藤満を最後にパタリと絶えた。その間に2004年から女子種目が採用されていた。

 169センチの体に、広げると184センチに達する長い腕。肩や足首など関節の可動域も驚くほど広い。こうした長所を背に、米満は力をつけ、世界選手権では09年の3位から昨年の2位と着実に頂点への歩みを進めていた。この日の決勝では相手の懐に鋭いタックルで入ってそのまま持ち上げ、たたきつける豪快な技で3点を奪い勝利を大きくたぐり寄せた。米満は「夢みたい。まさか取れるとは思っていなかった。過去の自分を超えたいと思ってやってきた」と言った。

 ▽復活の兆し

 かつての日本レスリングと言えば肉体、精神両面での猛烈なスパルタ練習で有名だった。だが今はハードなだけではない。日本オリンピック委員会が打ち出した長期強化計画に沿って、科学的な取り組みも積極的に推進している。主導役を担った佐藤満チームリーダーは「やってきたこと(の正しさ)を証明できた。代表チームとして一丸で4年間やってきた。その結果が米満に表れた。決勝の3点技で涙が出てきた」と感無量の面持ち。日本レスリング協会の福田富昭会長も「日本男子レスリングの復活の兆しが見えてきた」と胸をなで下ろした。

 もはや、根性論だけではない。だから「男の意地」の言葉などどこからも聞こえてこなかった。とはいってもレスリングに限らず、女性陣に圧倒された印象が強い日本選手団。やっぱり、「男の意地」を強調したくなる。ともあれ過去最多となる今大会38個目のメダルを鮮やかな金で飾った米満選手、本当におめでとう。(共同通信社 岡本彰)


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