「五輪コラム」五輪に潜む「魔物」 「美しい体操」でリオに意欲 

男子団体総合で銀メダルを獲得した(左から)加藤凌平、田中和仁、山室光史、田中佑典、内村航平=ノースグリニッジ・アリーナ(共同)

 五輪に魔物はいる-。

 体操競技で金メダルひとつ、銀メダル二つを獲得した内村航平は、すべての競技日程を終え、そう話した。

 魔物が付いたのは、個人総合の最後の種目、床運動の演技の最中だった。昨年の世界選手権では種目別で優勝した最も得意とする種目と言っていい。

 「最初のあん馬から5種目ミスなく演技ができて、『あとは(床運動の)一個だから大丈夫だ』という気持ちになると、魔物に襲われる」

 演技では着地にミスが出た。メダルの色が変わるようなことはなかったが、ミスが起きたこと自体に、内村は自分でも驚いたようだった。

 その内村の言葉を神妙な顔つきで聞いていたのが、団体で安定した演技を見せた18歳の加藤凌平と、鉄棒のスペシャリストとして五輪に参加した22歳の田中佑典の二人だった。五輪という華やかな舞台には、ちょっとした隙に落とし穴が待っている-。二人にも、しっかりとこの言葉はリレーされたように思う。

 日本の男子体操界はこの10年ほど安定した成績を誇ってきた。塚原直也、冨田洋之、鹿島丈博らがアテネ五輪で団体金メダルを奪回し、「美しい体操」を掲げてきた。北京大会では冨田、鹿島と内村がともに戦い、リレーがなされた。

 その遺伝子が内村だけでなく、代表の選手に受け継がれているのは喜ばしい。ロンドンでも、空中姿勢の美しさは他国を圧倒的に引き離していた。それが採点に反映されにくいという恨みはあるが…。

 団体で銀メダルに終わったことで、内村は「次の目標がすぐ出てきた。自分を突き動かす原動力になっている」と話し、4年後のリオデジャネイロ五輪へ意欲を見せた。リオデジャネイロでは、魔物が付け入る隙のない完成された演技を見ることができるよう祈ろう(スポーツジャーナリスト 生島淳)


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