「世間の価値観変えたい」 千葉市パートナーシップ宣誓制度施行 市民や事業者にも理解を

証明書を受け取ったLGBTや事実婚のカップル=29日、千葉市役所
証明書を受け取ったLGBTや事実婚のカップル=29日、千葉市役所

 今日はゴールではなくスタート-。千葉市パートナーシップ宣誓制度が29日始まった。市役所であった宣誓証明書の交付式には、事実婚や性的少数者(LGBT)のカップル計6組が出席。熊谷俊人市長らから祝福され、すがすがしい表情で門出の時を迎えた。カップルたちは「世の中の価値観が変わるきっかけに」などと期待。市は各施策に制度の趣旨を反映させていくとともに、市民や民間事業者にも理解を求める。全国初の制度が定着するか注目される。

 熊谷市長は交付式のあいさつで「大学時代の仲間にLGBTがいた。カミングアウトされた時は驚いたが、普通の友人付き合いができた。多くのLGBTが不都合や不便を被っている」と制度立ち上げにかけた情熱の源泉を“告白”。「制度が全ての人にとって生きやすい社会実現の第一歩になる。皆さんの人生とパートナーシップを応援したい」と話した。

 宣誓書を提出し熊谷市長から直接証明書を贈られた各カップル。LGBT当事者らでつくる市民団体「レインボー千葉の会」共同代表で、制度創設を訴えてきた上井ハルカさん(38)はパートナーの佐野心春さん(40)と念願の証明書を手にした。上井さんは「うれしいと同時に気が引き締まる思い。今日はゴールではなくスタート。世の中の価値観を変えていきたい」と力を込めた。

 同団体事務局長の松尾圭さん(38)は山田瑞紀さん(34)とパートナーシップを誓った。山田さんは「病気など今後のリスクを考えると、パートナーを主張できるのは安心につながる」。松尾さんは「人生の選択肢が多いのは大事なこと。他の自治体にも制度が広がってほしい」と願った。

 制度開始を受け、市は2019年度から市営住宅や市営霊園でパートナーも申し込みができるように要綱などを改正。市立病院2院では29日からパートナーが意識のない場合の面会などを認めたが、手術への同意は他の家族の意思も考慮する必要があるため「今後の検討課題」(市病院局)とした。

 市は今後も制度を各施策に反映する意向。市男女共同参画課は「どこまで制度への理解が広まるかが課題」と捉えており、不動産などの各業界団体を通じて民間事業者にも制度を啓発していく方針という。

◆33年寄り添う2人に笑み

 交付式でパートナーシップ宣誓証明書を受け取った伊藤悟さん(65)=写真左から3人目=と簗瀬竜太さん(56)=同4人目=。2人は同性カップルとの理由でアパートなどへの入居を何度も拒まれてきた苦い経験も振り返り、「今はこうしてパートナーとして証明されたことに感激している」と喜びの表情を見せた。

 33年間、寄り添って生きてきた2人。その歩みは社会の無理解との戦いだった。2011年、簗瀬さんが腹痛を訴え救急搬送。病院に駆け付けた伊藤さんだが、ただの“知人”と判断され、処置室へ入ることも医師から病状の説明を受けることもできなかった。伊藤さんは「自分たちが社会のルールからはじかれていると感じて悲しかった。いかにできないことが多いか実感した」と振り返った。

 2人は千葉市がパートナーシップ宣誓制度を検討していることを知り、昨年11月、市内に転居。住宅を借りる際、簗瀬さんが「パートナーシップ宣誓をする」と不動産会社の担当者に伝えると、契約がスムーズに進んだという。同居人の欄に初めて簗瀬さんの名前を書き込み2人で契約。「たった紙切れ1枚のことだが、本当にうれしかった」。

 「これからもお互いに支え合って生きていく」と笑顔で誓った2人。「他のLGBTの人にも諦めの気持ちを持ってほしくない」とメッセージを送った。


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