時空超え若者“交流” 手紙企画、反響受けシンポ 習志野の編集者、北川直実さんら 【令和へつなぐ -戦争の記憶-】

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シンポジウムを企画し、戦争体験の継承へ思いを新たにした北川さん(右奥)=東京都渋谷区
シンポジウムを企画し、戦争体験の継承へ思いを新たにした北川さん(右奥)=東京都渋谷区
「戦争の記憶をつなぐことが未来の命を救う」と語る市村さん(右)=10日、東京都渋谷区
「戦争の記憶をつなぐことが未来の命を救う」と語る市村さん(右)=10日、東京都渋谷区

 習志野市の編集者、北川直実さん(59)らの著作「若者から若者への手紙1945←2015」の出版を機に、戦禍の記憶を次世代に引き継ぐ新しい試みが広がりを見せている。

 同書は、9~25歳で終戦を迎えた人たちの証言と、それを読んだ現代の若者たちが証言者に宛てた手紙を収録。時空を超えた交流を英訳する計画が実現し、戦争を考えるシンポジウムが開かれた。

 北川さんは「戦争体験の伝え方にはいろいろな方法がある。考え方やルーツが違う人と話すと違った発見がある」と強調する。

 きょう15日は74回目の、そして令和最初の終戦の日。昭和から平成、令和へと時代が移ろっても、語り継ぐ意義は変わらない。

◆戦禍伝え未来の命救う 一冊の本が新たな可能性

 習志野市の編集者、北川直実さん(59)らが世に出した1冊の本は、戦禍の記憶を未来に引き継ぐ取り組みに新たな可能性を示しつつある。戦争体験者の証言とそれに対する若者の手紙を収めた著作「若者から若者への手紙1945←2015」を世界に届けようと、英訳版の出版が実現し、平和を語り合う記念シンポジウムが開催された。翻訳した学生は「戦争の記憶をつなぐことが未来の命を救う」と継承の意義を訴えた。

 同書は戦後70年の節目にあたる2015年に出版された。原爆の被害者や元兵士ら15人(終戦当時9~25歳)の体験を北川さんとライターの室田元美さんが聞き書きし、証言を読んだ若者(出版当時16~28歳)が体験者に宛てて書いた手紙を収録した。「自分の中に体験を入れて言葉を紡ぐ。その人と向き合うことができる」。北川さんは手紙という形を採った理由をこう説明する。

 多くの反響とともに「海外の人にも」との声が届き、同書の翻訳プロジェクトが始動。体験者の証言は米国人翻訳家が担当し、若者の手紙は日本や韓国、フィリピン出身の19~29歳の15人が英訳した。クラウドファンディングで資金を調達して6月、平和への願いを世界に届ける英訳版の電子書籍出版にこぎ着けた。

 シンポは出版を記念し、東京都内で今月10日に開催。プロジェクトに参加した学生らが実感したことを、10~80代の来場者約90人の前で語った。

 津田塾大大学院修士2年の市村かほさん(25)は、地元・岩手県大船渡市の漁村では明治・昭和に襲来した津波の恐ろしさを語り継ぎ、平成の東日本大震災で教訓が生きた経験を紹介。「奇跡と呼ばれるが、そうじゃない。昔の被害を伝えていたからこそ、今の被害を小さくできた。戦争の記憶をつなぐことは未来の命を救うこと」と、あふれる感情を抑え切れずに涙声で力説した。

 約10年前にセネガルから来日した団体職員のゲイ・ウリマタさん(28)は、東京大空襲で被災した清岡美知子さんの証言を読み、当時の清岡さんと同世代の女性の手紙を翻訳した。父と姉を亡くした清岡さんの証言に心を打たれたウリマタさんは今の戦争教育に疑問を呈する。「戦災者一人一人に顔があり、生活があった。その生活が戦争でどう変わったのか触れていない」

 翻訳した学生たちは、自らも証言者に宛てた手紙を書き、シンポジウムの運営に加わった。「話を聞くだけでなく、感じ取ったことを外に向かって表現すれば理解が深まる」との思いから、来場者が感想を語り合い、今後の社会に必要なことをアート作品で表現する試みも採用。自分の言葉で自分なりに戦争をつづった体験は、新たな発想を生み出し、世代や国を超えて平和を語り合う機会を導き出した。

 同書を通じ「戦争体験の伝え方にいろいろな方法があると感じた」と北川さん。英訳版の出版と同時に、国内外の読者が交流するサイトも立ち上がった。「各国の人が伝えるアジア太平洋戦争がある。考え方やルーツが違う人と話すと、これまでとは違った発見がある」。戦争経験者が少なくなる中、記憶の継承に向け新たな道筋を紡ぎ出している。

(地方部・武内博志)