「煮えきれないもの爆発」 入所者を恐怖で支配 暴行、引き金はストレス 市川福祉施設女性傷害致死 【法廷から 記者が見た人生模様】

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被告による“支配”が繰り返された施設。女性は入所した約3カ月後に被告に殴られ死亡した。
被告による“支配”が繰り返された施設。女性は入所した約3カ月後に被告に殴られ死亡した。

 「安住の場所」となるはずの施設で事件は起きた。市川市北方町4の福祉宿泊施設「さくらグリーンハウス市川」で昨年8月、入所者の女性=当時(84)=が殴られ死亡した事件。傷害致死などの罪に問われた元施設管理人で無職、生田玲子被告(56)に千葉地裁(楡井英夫裁判長)は9月20日、懲役7年の判決を言い渡した。証人として出廷した入所者は「怖かった」と、被告を逆らえない存在だったと証言。「寮長」と呼ばれた被告が“支配”した施設は、悲惨な暴行を目の前に入所者が声を上げられない状況となっていた。

(社会部・町香菜美)

 「間違いありません」。裁判長から起訴内容を問われた被告は、背筋を伸ばしはっきりした声で答えた。しわ一つない白色のワイシャツに、長い髪をきっちりと後ろに束ねた髪型。「白黒はっきり付けないと気が済まない」と法廷で自身の性格を語った姿と重なるようだった。

◆執拗な暴行

 暴行現場の同施設は、生活に困窮した女性向け宿泊所。検察側の冒頭陳述などによると、当時18人が入所していた。もともと入所者だった被告は前の施設長の推薦を受け、2016年7月から住み込みの管理人として働き始めた。

 「寮長」と呼ばれた管理人の仕事は施設の管理や食事の準備-だけではなかった。「毎日何らかのトラブルがあった」。施設内で起きたもめ事の仲裁、入所者が外部で起こしたトラブルの対応に追われた。

 「煮えきれないものが爆発した」。昨年8月27日夕、指示をした掃除に参加せず、禁止されていたサンダルを履いてきた女性を暴行し、死亡させた心の内を淡々と振り返った。

 「今までこんなにストレスを抱えることはなかった」「頭がパニックになった」と時折涙声になりながら語った被告。一方で、他の入所者に指示して女性に水を掛けたり、足を押さえつけさせたりするなど、エスカレートしていった凄惨(せいさん)な暴行も明らかになったが、被告は「(指示は)していません」とぴしゃりと否定。最後まで認めなかった。

 被告にとっては夫の会社の倒産をきっかけに離婚し「全てを捨てた」だけに、簡単にやめられない仕事だった。休日には電話1本で施設に駆け付けた。「本人は一生の仕事にすると言っていた。もっと話を聞いてあげれば…」。母親の後悔の言葉に、被告は下唇をかみ鼻を赤くして目を拭った。

◆「怖かった」

 出廷した入所者は、別室で話すビデオリンク方式や弁護側との間に遮蔽(しゃへい)を施すなどして、被告との“対面”を避けて証言。警察への通報をためらった理由を「怒られたり、生活保護を廃止されたりするのが怖くてできなかった」。声を振り絞った入所者から、寮長に逆らえない状況が浮かび上がった。

 判決で楡井裁判長は、暴行の執拗(しつよう)さや悪質性を非難したが、「なお」とひと呼吸置いた後に続けた言葉では、施設管理を1人で担っていた労働環境に触れる場面も。「ストレスをため込み、突発的に過剰な暴行に至ったという面を否定できない」とした。

 被告の立場や心情に一定の理解を示す部分が目立った判決だった。裁判長は判決言い渡し後、「当時あなたが置かれた立場は厳しいもの。だからと言って、したことは許されるものではない」と説諭。「今後は被害者や遺族に対し謝罪の気持ちを持ち続けるように」と続けた。「元寮長」は前を見据えたまま立ち尽くした。